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その一言だけが正義

谷裂と賀髪は、複雑な奴らだ。肋角はそう思った。

谷裂と賀髪を出会わせる前、きっと好ましく思うか反対に忌み嫌うかのどちらかだとは分かっていた。しかし、ここまでだとはさすがの肋角でも想像できなかった。
ばったり会ってしまえばお互い鋭く睨みつける。それだけならまだいいが、片方が難癖をつける。それに相手が反応してしまう。どんどんエスカレートしていき、最終的に己の武器を相手に向ける。子供かと呆れてしまう。

それで調度品や壁が壊れたのも数回ではない。肋角や災藤に説教され、しっかり反省した顔を見せてはいるが意味はない。減給になったり、修理を命じても二人は真面目なので特に不満はないようだった。修理の場合、共にやれと言うのでそれは心底嫌そうな顔をしているのだが。


しかし。そんな二人も、どうやら恋仲になったらしい。以前ならまったくもって考えられなかったことだが、木舌に言われれば納得もできた。

「肋角さん。捕まえた亡者の件、まとめておきました」

「ご苦労」

書類に目を通し、ハンコを押す事務作業中、賀髪がやってきた。いつも任務もその後の処理も素早く終わらせてくるので、労うと同時に優秀な奴だと心の中で付け加える。

「何か不備があれば呼んでください。失礼しました」

「賀髪」

「はい」

呼び止めれば、何の感情もない碧が肋角を映す。

「谷裂は、どうだ?」

谷裂とは、と口にするのはやめた。部下のそういったことに上司が首を突っ込むものではない。だからただ評価を尋ねるに収めた。

「嫌な人です」

賀髪は何を今更とばかりに、西洋の人形のような美しく傷ひとつない顔を歪めた。凍てつく瞳に嫌悪が浮かんでいる。

賀髪は、基本的に感情を表に出さない。出しても侮蔑や呆れといったものであり、仲が良いと思われる女獄卒などといてもプラスの感情をめったに見せない。だが谷裂の話題になると、嫌悪や憎悪ではあるが何かしらの感情が浮かんでくる。谷裂の話をしているときの賀髪は、人形ではなく、人間らしい。


その一言で話題を強制終了させるかと思っていた。

「ですが―――― 一番信頼できる人です」

静かに、けれど力強く。賀髪はそう述べた。目にはもう嫌悪はない。形の良い唇が紡いだように、はっきり澄んだ感情が瞳の奥にあった。

「そうか」

肋角は小さく微笑んだ。それ以上の言葉はいらないと、軽く頭を下げ、賀髪が出て行く。
執務室の外でつららの声と怒鳴り声がドア越しに入る。きっとちょうど谷裂と賀髪が出くわしたのだろう。

ノックされ、許可を出せば少し苛立った様子の谷裂がやってきた。

「肋角さん、何でしょう」

「もう資料はいっているな。亡者が何人か逃げている。そいつらを捕まえてくれ」

「はっ」

谷裂が礼をし、出て行こうとする。それを呼び止める。

「谷裂」

「はい。まだ何か?」

「賀髪は、どうだ?」

薄く笑いながら同じ質問を投げかけた。肋角にはなんとなく、賀髪と同じ答えが返ってくるのだろうと確信していた。



肋角さんが見た二人。災藤さん版もいれようかなと思いましたが、話の納まりがいいのでやめておきました。
タイトルは二人の「嫌いだけど信頼はしている」ということ、それは真実で当たり前の事実だということで、正義としました。