過去こねた | ナノ

ねた

(仙蔵と)綾部

後輩たちの事が守れるようにと思っていた。
仙蔵に対しては彼の役に立てるようにと。
けれども綾部は見てしまった。
藤内が大怪我を負って仕舞った時に真っ青になった仙蔵の顔色を。
震える体を懸命に抑えて方々に指示を飛ばす姿を。
守りたいと思った。
ただ圧倒的に仙蔵の守護者たる自分の姿を願った。


竹谷と久々知

柄にもなく俺は今、走っている。
自分が、こんなにはやく走れるなんて思わなかったから、なんだかびっくりした。
途中、お前は追ってくるのかなと思って振り向こうとしたけれどそんなことが出来るほど俺は強くはなかった。
途中、何度も転びそうになったがなんとか踏止どまって坂道もなにも関係なく俺は走った。
息切れと汗とでなんだかもう苦しくて気持ち悪くて散々な気分になった。
たくさんの人とすれ違うなかで、三人、勘右衛門と雷蔵と三郎 がいたことに気がつく。
いつも四人であるのに今日、いや、今だけ彼、八左ヱ門はいな い。
なぜなら先程まで、俺と一緒にいたからだ。
俺は冷たい空気が漂う廊下無我夢中で駆け抜けると長屋の扉を開ける。
ふわりと風が吹いたのと同時に俺は畳んである布団ににダイブした。


「好きだなんて、…聞きたく、なかった」


俺の気持ちを追っていても俺自身の事は追ってはくれないんだなと思った自分が悔しくて思わず泣けてしまった。


文次郎(と仙蔵)

「…」


はじめては教室で、俺が間違って持って帰ったお前の本だったな。
それを取りに俺の部屋に来た日からお前は毎回なにかを忘れて行く。
忘れて行くんじゃない。
わざと置いて行ってるんだって、もうとっくに気付いてる。
まるでシンデレラ。
こんな物を置いて行かなくても、来たい時に来たらいいのに。
俺はそんなにお前を不安にさせているのだろうか。
まぁ、お前の忘れ物のお陰で理由もなしにお前を部屋に連れて 来れるんだがな。
もう暫くは忘れん坊という事にしておこう。
照れ屋なお前は理由もなしに呼んでも、きっと来てくれないだろうから。


文次郎と仙蔵

『仙蔵、また忘れ物だ』

「え、…なに?」

『今日はネクタイを忘れてる』

「あぁ、すまん、…明日、取りに行く」

『まったく、お前は、…相変わらず忘れ物が激しいな』

「…五月蝿い」


からかったように笑われて、そう返した。
そうなんだ。
なんでもすぐに忘れて来る。
今日はネクタイ。
昨日は髪ゴム。
一昨日は、…なんだったっけ?
はじまりはお前が持って行って仕舞った本を取りにお前の部屋に行った時。
その日はその本を忘れて来た。
全部、 全部わざと。
なんでかな。
なにか口実がないと、お前の部屋に行けない。
なにか口実がないと、呼ばれないんじゃないかって凄く不安。
お前が私を想ってくれてる事は、よく解ってる。
それでも、それでもすごく不安なんだ。
ネクタイを取りに行っても、きっと私はまた、なにかを置いて帰って来る。
またお前の部屋に行きたいから。
重たいって思われてもいい。
理由もなしにお前の部屋に行ける程、私は素直じゃないんだ。


文次郎と仙蔵

「肩、貸してくれ」


これが、通常。
でも今日は違った。
先刻からこくりこくりとすぐにでも寝てしまいそうな文次郎。


「文次郎、…眠いのか?」


私がそう聞くと「この頃、眠れなくてな」と返って来た。


「眠いなら寝ろよ、…肩、貸すから」

「…有り難う」


するとすぐに寝息が聞こえて来た。
余程、眠かったのだろう。


(…意外と、重い)


今までは逆の立場だった為に気付かなかったが、肩にかかる頭の重さをはじめて知った。


(文次郎は、今まで重いだなんて一言も言わなかった)


「…文次郎、…有り難う」


少し、文次郎の顔が綻んだ気がした。


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