TOUCH_05


5.


廊下で声をかけたときから、なんか変だとは思ってたけどさ。

「……伊織さん、そこ、ちょっとくすぐったいんだけど」

オレがそうぼやいても、脇下リンパをマッサージする手は止まらなかった。

「伊織さんって!」
「えっ」

驚いたように、ようやくその手が離れていく。
なんなんだろこの、疑いようのない、うわの空っぷり。

「ぼうっとしすぎじゃない?」
「ごめんごめん、ちょっと考えごと」
「それは見てればわかるけど。言っておくけどいま、伊織さん仕事してんだからね?」
「だから、ごめんってば」

眉を八の字にして、伊織さんは謝った。
オレの体をいじくり回しながらほかのこと考えてるって、どういうことなんだか。
そんなんで、まともな治療なんかできンの? って、オレもなんでこんな苛立ってんのか意味わかんないけど。

「さっき千夏と、なに話してたの」
「うん……宣戦布告的な?」
「え」

オレに集中させるために話題を振ったら、びっくりするような答えが返ってきた。
そりゃあ、仕事を放り投げてここまで来た千夏が望んでいるものくらい、いくらオレだってわかるけど。

「はい起き上がらない、前向く」
「宣戦布告って……どういうこと」
「別にケンカ売られたわけじゃないから大丈夫。わたしとリョーマがそんなことあり得ない、くらいの感じで言っておいたから。彼氏も見せた。安心したみたいよ? 千夏さん」
「安心されても面倒なんだけど」

……っていうか、あり得ないってのも、ちょっとムカつくな。

「へぇ? リョーマはもう、気はないの?」
「ん。今回のことに、ちょっと考えさせられるし。悪い意味で」
「あ、やっぱり」
「伊織さんも?」
「んー、まあ女から見ると、彼女の美しさに僻んでる部分もあるのかもしれないけどね。なにしに来たのかはっきりしないのが、わたしとは合わないかなって思ったけど。でも仕事に支障きたすようなことはしないから」
「うん、その辺については伊織さんのこと信じてるから、オレ」
「そっか」

逆に言えば、仕事に支障きたしそうって意味では、千夏のことはちょっと信用できない。あいつが感情的なのは、身を持って知ってる。
けど……あんなにビジョンがフワフワしてたっけ、千夏って。もっと仕事に一直線で、オレのことも気遣ってくれたのに。
そのうち、伊織さんのマッサージの手が、またオレの脇下リンパに流れてきた。

「ちょ、さっきくすぐたいって言ったよね?」

案の定、伊織さんは返事をしなかった。
オレの脇下リンパにいくと考えごとするってスイッチがあるわけじゃないよね、まさか。

「伊織さんって!」
「あ、ごめん、またぼうっとしてた」
「ねえ、ダイジョブ? 疲れてんならもういいから」
「ううん、疲れてるとかじゃないの」
「じゃあ集中してよ」
「ごめん……」
「……なんかあったの?」
「ううん」

伊織さんの手は魔法の手だ。
正直、ずっと触れててほしいくらい温かくて気持ちいいから、「もういい」なんて言うオレ自身、ちょっと大人げないなと思ってる。けど、その最中にオレ以外に意識がいってるのは納得いかない。
よくわかんないけど、オレのプライドが傷ついてるのは確か。

「悩みあるなら、聞くけど」
「大したことじゃないから」
「あるんじゃん」
「あるけどさ」
「話しなよ、話したほうが気が楽になるでしょ」
「でも、たいした悩みじゃないから」
「なにそれ。オレには話せないこと?」
「そう、リョーマには関係ないことっ」

パチン、となにかの糸が切れたみたいに伊織さんが声を大きくして、オレはそのとき、やっとしつこくしすぎた自分に気づいた。
……らしくない。なんでこんなに聞いたのか、しつこくするほど踏み込んだことも。
そうやって、自分が悪いってわかってんのに、全然、素直になれそうにない。

「……アンタもう集中してないから、寝なよ。オレも寝るから」
「あ……リョーマ」
「もういいから、マジで」
「……わかった。おやすみ」

返事もしなかった。ガキなオレ。
変な空気だった。めちゃくちゃ、気まずくて。
初日からこんなんでやっていけるのか、不安が残っていく。
ていうか……なんでこんなに人のこと心配して、しつこくして、嫌われて。バカな自分にうんざりする。
でもやっぱり、伊織さんが施術したあとの身体は正直だった。
ベッドの上で深呼吸をしたまま、オレは眠りについていた。





それから、5日が過ぎた。
今日は、ウィンブルドン1回戦目だ。

「リョーマ頑張ってね」
「うん」

いつの間にか後ろに立っていた千夏が、目をきらきらさせてオレを見てくる。
いまのところ、千夏はなにもアクションを起こしてこない。
伊織さんから聞いてた話があったからちょっと拍子抜けしてるけど、きっといつか仕掛けてくると思うと、それもいろいろ面倒だなと思う微妙なストレスがある。

「今朝の朝食、スペシャルメニューにしてたの気づいた?」
「うん」
「少し空腹くらいがいいと思ってね」
「うん」

……試合前に、なんか恩着せがましいな。

「千夏ちゃん、美味しかったよ朝食! なあリョーマ!」
「うん」

オレの表情を読み取ったのか、オヤジが割って入ってきた。
オヤジはたまに、こういう絶妙にいい仕事をすることがある。

「ありがとうございます南次郎さん」
「こんな栄養管理のスペシャリストがついてんだ、ま、負けることはまずないだろうが、気張っていけよリョーマ」
「ん」
「なんかお前、機嫌が悪くないかぁ?」
「悪くないよ、大丈夫」
「……ひょっとして伊織さんか? ん?」

オヤジが耳元でつぶやく。聞こえないんだろう千夏は、目を丸くしながら様子を伺っていた。
なんでオヤジって、女の裸のことしか考えてないくせに、こういうところだけ鼻が利くんだろ。絶妙さがそこに紐付いてるってわかってても、うっとうしいことだってあるんだよね。

「なーんか、雰囲気が悪いもんなぁ? お前ら。なんかあったのか? ん?」
「なんにもない」
「業務連絡しかしてねえ感じすっけどなぁ、青少年」
「いくつになったと思ってんだよ」
「俺から見りゃいくつになってもお前はハナたれ小僧だよ」
「って!」
「うわ、リョーマ痛そう」
「大丈夫だ千夏ちゃん、この坊主はこれくらい慣れっこだ」

頭を小突かれて睨み返しても、オヤジはしらっとしている。
わかってるよ、言いたいことは。こんな精神状態で試合に挑むのはよくないよ。
体調はよくても、メンタルは試合にかなりの影響を与える。

「リョーマ」
「え」

そんなわけでどうしようかなと思っていたら、意外にも伊織さんがオレと千夏とオヤジの間に割って入ってきた。

「試合前に軽く状態を見たいんだけど、いい?」

と、顔を振って場所を変えようと合図する。
伊織さんの意志を感じて、オレは素直に従った。





「うつぶせになって」
「いま!?」
「すぐ終わるから」

伊織さんについていくと、そこには施術台が用意されていた。
仕方なくうつぶせになる。
……あと10分で試合、始まっちゃうんだけど。

「目を閉じてね」
「なにすんの?」
「いいから」

言われるがままに、目を閉じた。
伊織さんの温かい手が、腰と、背中と、首と……全身に、ゆっくりと触れていく。
ほどよく緊張してたせいか、眠くなりそうだ。

「ねえ、これなに」
「うん……おまじない。リョーマが無事にウィンブルドン終われるように。スピリチュアル系、好きじゃないって言ってたけど。意外と効果あるんだよ?」
「そっか……」
「うん。はい、終わり! もういいよ」

言われて、オレは施術台から降りて伊織さんを見下ろした。
少しだけ照れくさそうに笑う伊織さんは、結構な勇気を出して、こんなことしてくれたんだと思う。

「伊織さん……こないだ、ごめん」
「え」
「しつこかったかなって。なんかわかんないけど、オレ……千夏のせいかな、ちょっとイライラしてた」

素直にそう謝ると、伊織さんは笑い出した。

「なに、笑ってんの」
「いや、リョーマが謝ることなんてひとつもないのに。わたしが悪かったんだよ、あの日は。謝れなかったのも、わたしが悪い。ごめんね。素直じゃないから、こんな形で謝った気持ちになって、ふわっとさせて。わたしのほうが、よっぽど子どもっぽいよね」

なんでだろう。その言葉はオレの頭の上を通り過ぎていく。
伊織さんのいつものパワーを、感じられなかった。

「あのさ、伊織さん」
「ん?」
「なんかあったら、ホント、言ってよ」
「ありがとう。でもリョーマ。いまは試合のことだけ考えて」

そう笑った伊織さんが、突然オレにハグしてきて、オレは完全に固まった。

「頑張れリョーマ。勝ち進んで、優勝しよう!」

まるでスローモーションだった。
身体の熱が一気にあがって、オレは思わず伊織さんから離れた。

「ちょ、ストップ、離れて!」
「え……あ、ごめん。嫌だった?」

アメリカ暮らしが多いオレにとって、女の人とのハグなんて全然、めずらしいことでもなんでもない。
なのに、なに動揺しまくってンの、オレ。

「いや、嫌とかじゃなくて……」
「ひょっとして、照れたの?」
「ちがっ」
「へぇ、かわい。そういうとこあるんだ」

完全な子ども扱いでオレをからかう伊織さんに、オレはしばらく、ドキドキしていた。





「順調だねリョーマ」
「トーゼンでしょ」

オレはプロだから。
だから、試合前に変に動揺しようが、自分の無意識化に潜む『ナニカ』に気付こうが、試合になったらそんなの全部忘れて集中する。

「日本も盛り上がってるらしいよ」

オレの腰に手をあてながら、伊織さんは嬉しそうにそう言った。
そういうわけで、初戦からさらに1週間が経つ。オレはベスト16まで勝ち進んでいた。
でもこの成績は、そんなに驚くことでもない。問題は、ここからだ。

「オレはまだまだ上にいくよ。こんなところじゃ終われない」
「だね。でも無理は禁物」
「わかってる」
「腰痛は大丈夫?」
「オレはヘーキだっていつも言ってるっしょ」
「その無頓着さがわたしは逆に気になるんだけど。やせ我慢タイプだし」
「伊織さんは気にしすぎ」
「気になるに決まってるでしょ、リョーマのウィンブルドン支えてるつもりなの、これでも」
「わかってるよ。それはもちろん信じてる」

あの日から、伊織さんはなにも変わらない。
様子が変だったのも千夏となにか話してたあのときだけで、オレをハグしたあとだって、なにも変わらずだ。
それがなんか、気に入らなくて。だからって不機嫌を丸出しにしてるわけでもないけど。

「じゃあ今日はお休みだし、いつも以上にゆっくりすること。なるべくテニスから離れる」
「ん」

部屋を出る直前、伊織さんが言うことはオフだろうがオフじゃなかろうが一緒だ。トレーニング前、試合前以外はいつも、「ゆっくりする」「テニスから離れる」。
だけどそれを守らずに、オレは大会中に暇があると、どうしても試合を観に行ってしまう。なるべくテニスのことを考えないようにしたいけど、それはそれで無駄な努力になる。
だからストレスを溜めないように行くんだけど、でも、どうせ見に行くなら……。

「ねえ、伊織さんは今日、なにすんの?」
「なにって? のんびりする予定だけど?」
「じゃあさ」

一緒に試合、観に行かない?
そのひと言を告げる直前で、部屋のチャイムが鳴った。

「あれ、お客さんだね」

伊織さんがオレの許可も待たずに条件反射的に扉を開ける。
そこには、千夏が立っていた。お弁当です、と言わんばかりのバッグを持って。

「あ、朝の整体は終わりました?」
「千夏さんおはよう。いま終わったとこ」
「そうなんですね! じゃあちょうどよかった」
「あれ、ひょっとしてデート? ふたりとも楽しんでね」
「はーい!」

なんでそこは察して、肝心なとこはスルーなんだよ。
無頓着はどっちだっての……。

「千夏……どうしたの?」
「もちろん、デートのお誘いに決まってるでしょ」

いよいよ、アクションを起こしてきたってわけだ。





「あのさ、男できたんじゃなかったっけ」
「え」
「言ってたよね。東京で偶然会ったとき」

オレがオフに試合会場に行くと知ってる千夏は、朝から弁当を作っていたらしい。
こないだのオフだってその前のオフだって無視してたくせに、なんでよりによって今日なんだか。タイミングが悪すぎる。
せっかく伊織さん、誘おうと思ってたのに。ホントなら、いまとなりにいるのは伊織さんだったかもしれないのに……。

「そんなのリョーマだって、もうわかってるでしょ」
「じゃあアレ、嘘だったってこと?」

千夏の卵焼きを口に放り込んで、オレは聞いた。
相変わらず料理はうまいけど、やっぱりそこが腹落ちしない。まあ別に、どっちだっていいんだけど。
ただ、千夏がここまで来た目的なんてのは手に取るようにわかる。そこまでの熱意を受けて、オレだって千夏のこと、まったく考えなかったわけじゃない。でもオレが好きになった千夏といまの千夏は、やっぱり少し違う気がする。

「もちろん嘘だよ」
「へぇ……否定しないんだ」
「したって無駄でしょ。こんなとこまで来てるあたしの気持ち、わかるよね?」
「わかるよ。じゃあ、彼氏できた宣言なんだったの」
「リョーマに後悔させるために決まってるじゃん!」
「ちょ、声がでかいって」
「あ、ごめん……」

素直になったり計算したり、千夏は忙しい。そういう支離滅裂な精神状態に、少し前までのオレは踊らされてた。
最初はその踊りが心地よかったのに、いつのまに耐えれなくなったのか、自分でもよくわかンないんだよね。

「オレ、千夏との復縁とか考えてないから」
「それもわかってる。でもあたし、やっぱりリョーマが好き。別れたくなかった」
「……嬉しいけどさ」
「リョーマ、少しは悪いって思ってくれてたでしょ」
「そりゃ、きついこと言ったかなって思ってたけど」

会場では歓声があがったり悲鳴があがったりで盛り上がってるってのに、なんかもうオレ、試合どころじゃないんだけど……。
千夏は間違いなく、こういうことに無頓着だよね。まあいっか。ちょっともう、どっちが勝つか見えてきたし。

「リョーマさ」
「ん?」
「伊織さんのことが好きなわけじゃないよね?」

ぎょっとして千夏を見ると、千夏はいたって真剣にオレを睨みつけていた。
なんでそんな話になるのか、全然、意味がわかんない。

「あるわけないデショ」……って、言い切る。言い切るしかないし。
「言っておくけど伊織さん彼氏いるから」
「知ってるし、だからないって」
「その彼氏さん、あたし知ってるけど、すごくイケメンでいい人だよ。大人だし」
「ふーんあっそ……え、知ってる? なんで千夏が?」
「元女子バスケのコーチやってた人で、あたし、たまたま同時期にバスケの栄養管理してたことがあるの」

そんなこと、伊織さんひと言も言わなかったな……彼氏を見せたって言ってたのに。

「3年前にいろいろあって辞めていった人だから、きっとそのあと、伊織さんが支えたんだよ。ふたりが並んでる写真を見せてもらったんだけど、すごくお似合いだった。だから、もしリョーマが伊織さんのこと好きなら」
「ちょっと待って、千夏」

そこまで聞いて、違和感を覚える。
3年前にいろいろあって、そのあと伊織さんに会った?
なんでそんなこと、千夏が言い切れるんだろう。それに伊織さん、たしか……。

「待たない。無駄なんだから。ふたりはすごいラブラブだよ。リョーマが入る隙なんてない」
「それはわかったって。別に伊織さんのこと、好きとかじゃないよ」
「じゃあ、リョーマのなかの女に数えれるのは、あたしだけだって思っていいよね?」

強引すぎる……。

「その前に聞きたいんだけどさ」
「なに?」
「なんでその彼氏、バスケのコーチ辞めたあとに伊織さんに会ったってわかんの?」
「それはだって……3年前に辞めた理由が女だもん」
「へ?」

オレが聞き返すと、千夏はウワサ話を楽しむような顔で、コソコソとオレに言った。

「エース選手を妊娠させちゃったんだよね、彼」





伊織さんが秋人って人と付き合いはじめたのは、5年前だったはずだ。
だから伊織さんと千夏が話していたあの日、様子が変だったんだとわかる。

「リョーマおまたせ! じゃあ今日もいきますか」
「ん」

日課である夜の整体の時間、伊織さんはいつも通り、笑顔でオレの部屋にやってきた。

「いい休日を過ごせた? デート、どうだったの?」
「別に。デートじゃないし」

伊織さんがどこまで千夏に聞いたのか知らないけど、千夏の話を聞いた限りじゃ、わざわざ千夏がバラしたわけじゃないと思う。
てことは、なにか変だと思ってて、あの日、うわの空だったんだ。
あれからもう2週間近く過ぎてる。そのあいだに、伊織さんの性格なら、本人に聞いてるよね。

「どしたのリョーマ? 早くうつぶせになって」

施術台の前まで行って、オレは立ち止まった。
伊織さんがオレを覗き込んでくる。

「伊織さん」
「なに、どしたの? 調子悪い?」

秋人って人は、伊織さんと付き合いながら、職場の女とも付き合ってて、その女を妊娠させて、仕事を辞めてる。
伊織さんはそのことを、知らないまま付き合ってたんだ。5年も付き合ってきた男の、3年前の裏切り行為を、ついこのあいだ知った……。
あの人との結婚にこだわってたくせに、取り乱すこと無く、毅然として。

「リョーマ?」
「無理しなくて、よかったのに」
「え?」
「なんでも言ってって、言ったよねオレ」

あんな話を聞いて、どんな顔して会えばいいのかわかんないって思ってた。
でも、こうして伊織さんと顔を合わせてると……。

「なに、急にどしたのリョーマ?」
「なんで笑ってんの?」
「え……」
「なんでそんなに、無理して笑ってんの」
「……リョーマ?」
「彼のこと聞いたよ、千夏に。あいつはなにも知らないけど、オレ、全部わかった」

目を見てそう伝えたら、伊織さんの瞳が揺れた。
息をのむようにオレを見て、無理に作っていた笑顔が崩れていく。感情の流れにのせていく。案の定、しだいにそれは、悲しみの色をまとっていった。
だってその右目から、涙が溢れてる。

「オレ見てらんないよ、いまの伊織さん」

顔を覆うとしたその手首をつかんで引き寄せると、堰を切ったように泣き出した。
胸のなかで、か細い声がくぐもって、オレに伝わってくる。

「誤解しないで。これ、こないだのおまじないのお返しだから」
「……うん、うんっ」
「落ち着くまで、このままでいいから」
「い……いまも、会ってるんだって。だから、結婚できなかったんだって」

しがみつく伊織さんの力が強くなって、その切なさに、オレの胸は押しつぶされそうになって。

「……最悪だね」
「別れる……もう、無理」

オレ……この人を守りたい。





to be continued...

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