端的に言えば、
「昨日、S女のお姉さん方とお話ししてきたよ」
また、ある日の昼休み。
冷やし茶漬けの4人に、俺は報告をした。
「わ、どうだった?」
「実に有意義だった……俺には麗日みたいな″可愛い″はできなくても″妖艶″はなんとかやれそうな気がする」
「ててて照れてしまうわ日紫喜くん、可愛いとか……っ」
「可愛いよ、特に笑顔がいい」
「ひぇぇぇえ!!」
「麗日と緑谷ってたまに似た反応するなあ」
赤くなって顔を隠す麗日を見て緑谷に話を振ると、緑谷も顔を赤くしてあわあわしていた。やっぱり似てるな。
「そうそう、鞭の使い方も教わってね」
「鞭……!?」
「ほ、本格的なんだな……」
飯田が頬を少し赤らめながら眼鏡を上げて言う。
「なかなか難しいんだ。ヒットの時に鋭く乾いた音が出るまで何回か、かかった」
「うぉう……」
「爆豪を叩くのか?」
轟がイチゴオレのストローから唇を離して、しれっと尋ねてきた。クールだな。
「いや、そこまでは。興味本意だ。でも実用的だからサポートアイテムに申請しようと思ってる」
「叩く気満々じゃないか!?」
別に、ピッチリした爆豪のコスチュームに鞭を当てたらどんな音がするかなとか、考えてない。
──嘘。ちょっと考えてる。
* * *
申請したサポートアイテムの鞭が届いた。
ミッドナイト先生のコスチューム会社謹製だ。
「爆豪、こいつの試運転につきあってくれないか」
「ああ……? ……鞭?」
ので早速、爆豪を放課後の自主練に誘ってみた。
「……どこでやんだ、演習場押さえてんのか」
「! 体育館γ(ガンマ)借りた。30分間だけど」
すると渋々といった感じで、煽らなくても了承してくれた。
こういう時、なんだか普通の友達っぽくて嬉しい。気を許してくれているんだろう、と自惚れてしまう。爆豪には普通の友達自体あんまいないからな。
「そんな小道具必要ねえだろうがテメェ」
演習場で待ち合わせて待っていると爆豪がコスチュームに着替えて現れた。今日もピチピチだな。制服はゆるゆるなのに。
「そんなことないぞ、戦闘の幅が広がるし、捕縛もできれば救助にも使えそうだ。なにより鞭使うやつがクラスにいないから、自分の実力の指標になるしな」
「……そうかよ」
「じゃあ、よろしく頼む。爆豪はコレに当たらないように動いてくれるか? 頑張って当てる。反撃してくれてもいい」
「……なら早速、反撃だわ!!」
「来ると思った」
身体を捌きながら、鞭の軌道をシミュレーションする。
上に弧を描いて、目標へ直角に当てるように──打つ──
外れた。
「うーん、動く標的はやっぱり難しいな」
「そんなんで実戦で使えると思ってんのかァ!?」
「だから、練習させてもらってんだ、ろ!!」
「ッテェェ!!」
「あっ当たった」
でも駄目だな、びしゃーッて感じの鈍い音だった。ぱぁぁんッて鳴らないとだめだ。角度が悪かったな。変に力も入った。
「っふッ」
「っツァッ!?」
外した……? いや、空を打った音じゃなかった。むしろいい音だった。
空間把握能力、動体視力、瞬発力を限界値まで上昇──
「っしッ!」
「……ッッ!!、チッ」
よし、良い音で当たるようになってきた。
……うん、実にイイ音だ。
10分ほど互いに動き回りながら練習させてもらった後、爆豪から講評をもらう。
「……1度目は結構痛かったがそれ以外は軽イ。音だけだ」
「あ、それで良いんだ。それが正解らしい」
「ハァ?」
「傷付けるのは今までのグローブでやれるから、それ以外の攻撃手段が欲しかったんだよ。お陰でかなりモノになってきた」
あとは搦め手を練習だな。
「ありがとう、爆豪。付き合ってくれて」
「フン。今度なんか奢れ」
「デートしてくれるのか!?」
「なんでそうなンだ!!バカか!!」
違うのか……!
「別にそんな関係にならんでも良いだろうがよ……」
扉の前に置いた体育館のカードキーを拾い上げると、ぽつりと爆豪が呟いた。ドキ、として振り向く。
爆豪は不服そうな顔を逸らして、早く扉を開けて出ろ、と促すように顎で指示した。けれど、今の爆豪の発言は否定しなければならない。
「……嫌だ、良くない。この関係じゃ満足できないから告白したんだ」
キリ、と目を見据えて想いを再度告げる。
「俺は爆豪といちゃいちゃしたい。あわよくばそのAカップはありそうな胸筋はもちろん、色気だらけの僧帽筋やら胸鎖乳突筋に性的な感じで触りたいし、触られたい。キスだって、したい。そういう意味での″好き″なんだ」
クソッ、爆豪、思いっきり引いてる。『真顔で何言っとんだコイツ』って言わんばかりの顔してるっ……!
それでも、この青春の一瞬一瞬を大事にしたい。
卒業してからとか夢を叶えてからとか、そこまで辛抱強く待つ気はない。できるだけ最短でオトして爆豪と早くそういう関係になりたい。端的に言えばえっちなことをしたいしされたい。
「そのためなら久し振りすぎるスカート履いて、わ、″私″って……おえ、一人称を変えるのだって、うっ、しんどいけどやれるぐらい、女として爆豪が好きだ」
「えづいてんじゃねえよきっめぇな……全然なってねえんだわ。半端なお前なら前の方がまだマシだ」
「男の見た目でもイケるだと!?待てそれはそれで懸念事項が増える!」
「そういうこと言ってんじゃねえええ!!」
「おっと、っだらァ!!」
「ッッぐッ」
襲いかかる拳を捌きながら掴んで反転し、自分の背を密着させる。勢いのまま前へ落とせば、見事に背負い投げが決まって爆豪を下へ押さえ込むことに成功した。
! チャンス到来だ!
S女のお姉さん直伝、妖艶なる色気オーラ。それを今、叩きこまずしていつ実行する!?
眼下にはすべすべの白い肌。その上に所々映える、僅かに朱く浮かぶ鞭の痕。
色素の薄い睫毛。
燃えるような赤色の瞳と歪む唇は苛立ちを隠さない。
可愛い。綺麗だ。顔に熱が集まる。髪がそれを隠すように肩から落ちた。
なんでだ……折角の好機なのに。
「…………すき」
声が震える。
prev / next