相対狂想曲 | ナノ


 爆豪は引き続き混乱している。

「あんな化けるとはなー。めちゃくちゃ美人じゃねえか」
「同じチーム、頑張れな!」

どいつもこいつもちょっと見た目変わったぐれェでウルセェ……なんでこんな日に限ってコイツと同じチームだクソ。

「爆豪!」
「わァって、ら″ァッ!!」

演習は、それでも変わらずやりやすい。
最低限の目配せと声掛けで互いの要求が伝わる。
例えるなら、自分の子機みてえな感覚。
欲しいときに欲しいパスがくるような、ラクさ。

だから俺らしくもなくトドメを譲ることもある。

「ヤれ!!」
「っっらァァ!!」

舐めプの氷を易々と叩き割ったり、男と対等にやりあったり。やっぱこんなゴリラ女、対象に入んねえだろ。
見た目はゴリラじゃねえが存在がゴリラゴリラゴリラだわ。

そう、見た目は……

悪くは、ねえ。


「それ足首捻ってないか……?」
「あ? なんともねえ、見んな」

チッ、めざといな。

「処置しとけよな。癖んなるし」

本当に好きな奴に見せる態度か?
どう考えても男同士の会話だろうが。
普通の女と比べたらクソほど対応が楽だ。
……? ひょっとして優良物件なのか……?



爆豪は、引き続き混乱していた。



だがまあ、付き合うとかねぇな。
興味ねえしそんなことに気を取られてる場合じゃねえ。
放置だ放置。



* * *



「弱ってるところ見られたくないって、猫みたいだよな」
「え、なんて日紫喜くん? 何のハナシ?」
「爆豪って猫みたいだなって」
「あー、かっちゃん昔からそうだよ」

幼馴染み殿にアドバイスをもらおうと、冷やし茶漬けのメンバーと昼飯を食べている。

知ってるか? 轟と麗日と緑谷と飯田で″冷やし茶漬け″って言うんだそうだ。飯に緑茶をかけて冷やすかららしい。轟のかたっぽの炎はどこいったんだろうな。冷やす前に飯と緑茶を温めるんだろうか。鮭とか海苔が欲しいところだが名前の合う人材を知らないな。

思考が脱線してしまった。

「日紫喜クンは、やっぱり爆豪クンのそういうところも好きなのかい?」
「そうだな、気性の荒い猫がたまに心を許してくれるのは可愛いと思う」
「気性の荒いww 猫ww ブフォッッ」

結構真面目に答えたのに麗日が吹いた。吹いても可愛いのはヒロインの特権だな。

「でも息が合うのも、個性のお陰かもしれない……」

誰とでも呼吸を合わせられる自信はある。それを、爆豪と俺との関係性の、アドバンテージと捉えていいんだろうか。

「個性はお前の一部だろ。料理が上手いとか、そういうのと変わんねーんじゃねえのか」
「うん。それに、かっちゃんとあそこまで疎通できる人はなかなかいないよ」

「……沁みたよ轟、緑谷。……ありがとう」

4人の優しい笑顔に励まされる。
冷やし茶漬けは、あったかいぞ。

「爆豪の好きなもの教えてくれるか? 緑谷」
「うん! えっと、料理は辛いものが好きだね、あれは発汗機能を高めてるんだと思う。それから山登りが趣味で登山用品をちょくちょく買うけど、新しいのは絶対ネット通販じゃなくて実物を見に行くんだ。あと寝る前に大抵シャレ怖な話を見るんだよね」
「お、おう……やっぱりすごいな」
「まだまだ語れるよ!」

緑谷の爆豪愛に勝てるだろうか……

しかし、辛いものや怖いもの?
実はM気があるのか? あの性格で?
でもぐいぐい行ったら嫌われそうだな。
常に一番を狙う男だ。
あからさまなマウンティングは絶対に駄目だ。
とすればポイントでぐりっと踏み込んで印象づける……
ピンヒールの如く……?

「今までに彼女がいたことは?」
「ないと思う、告白されてるのは見たことあるけど」
「まあそうだよな、モテる要素はあるがいかんせんあの性格だ」

普通の女子では見向きもされないだろう。ならば。

「女子の格好を続けてこの見た目に慣れてもらいつつ、態度はあまり変えずに行こうと思う」
「うむ、彼の性格上、それが無難な気がするな」

飯田に続いて緑谷も、首を縦に振って同意してくれた。

「そしてその上で、ピンヒール作戦だ」
「ピンヒール……?」
「ここぞというときにだけ、思いっきり女子らしく振る舞う。それもちょっとSっ気のある女子だ」
「え″っ……!?」
「続けて」
「デクくん!?」

この結論に至った過程を緑谷に打ち明ける。ゲンドウポーズで耳を傾けてくれるその姿は、頼もしい参謀以外の何者でもない。神よ、有能すぎる幼馴染みを遣わしてくださり感謝します。

「なるほど試してみる価値はある。1回ぐらいじゃかっちゃんも何が起こったか分からないだろうし、上手く行けば一発で意識してもらえる可能性もあると思う。様子を見て段々レベルを上げれば……」

「よし……そうと決まれば父の融通でS女サロンのお姉さん方と遊んで勉強してこよう」
「法には触れてくれるなよ日紫喜クン!?」
「大丈夫だ、お姉さんたちを招いてお話しするだけだ」

方向性が決まった。
この恋をきっと実らせてみせる。

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