相対狂想曲 | ナノ


 青春、クソ楽しい。

あ……焦るな震えるな。
まだ大丈夫、まだ挽回できる。


爆豪が強い瞳で、じっと俺を見ている。多分きっと、俺の真意を計ろうとしている。

組み敷かれていても爆豪の高邁さは褪せることがない。
そしてそれこそが、俺の心を鷲掴みにする。


煩い心臓を押さえつけて耳許に顔を近づけていく。

あ、──爆豪の匂いだ。

なんでこんなにゾクゾクするんだろう。
良い匂いすぎる……


「大人しいな。さっき俺──私が言ったこと、忘れた?」


息をわざと爆豪の耳に当てるようにして囁く。
そのまま手を爆豪の胸筋へ這わせて、するりと撫でる。


……!!

ちょ、あああ良い筋肉だ何だコレ適度に柔らかくて弾力あって実用的な付き方して期待以上だヤバいずっと触っていたい、……ち、乳首は……? あ、これ……?


ピッタリしたコスチュームは意外にもしっかりした生地。その一部分、ほんの少しだけ立ち上がっている部分を、爪で引っ掻いた。

殺気を感じ取って、全力で身を起こす。
直後、爆豪の右腕が振り抜かれて爆発の閃きが鼻先を霞めた。


「こ……ッ! っンの痴女がァ…………ッ」


唇をわなつかせて叫んだ爆豪は、怒りか羞恥かで顔を真っ赤して、涙目になっている。

うわあ……もう、極限に愛しい。
そんな顔されるともっと困らせたくなる。
眼下の絶景に目を細めて、口角を引き上げた。


まぁ、でも今日はこれで十分だろう。さっき俺のことを痴"女"って女扱いだったから。ミッションクリアだ。
よくあそこから頑張れた……!!


名残惜しいが、爆豪の上から退く。
背を向けても攻撃の気配はない。
ただ、……物凄く睨まれている気がする。


「今日はこれ以上変なことしないよ。
 ……早く出ないと爆豪に鍵預けるぞ?」


後ろ手に鍵を振って未だ動かない爆豪に"返却のお願い"を仄めかす。みみっちい所があることで評判の彼はすぐに立ち上がり、大股で俺を通り越して行った。

「チッ…………次変なことしたら分かってンだろなァ」

「爆豪が油断しなきゃいい話じゃないか」


彼は律儀にも、俺が来るのを待ってくれている。体育館の巨大な扉を大きく開いて、押さえるように凭れて。

図らずもレディーファーストになっていることには、気付いていないんだろうな。めっちゃくちゃ睨んでいるし。恐らくはお家での教育の賜物、癖みたいなものか。

あんなことした後なのに。
男装し始めてからは誰からも男扱いされてきたのに。
──ときめかざるを得ない。


「今度さっきみたいな機会あったら、爆豪が"そういうことを期待してる"って認識するから」


きっぱりとそう宣言すると、扉に凭れている爆豪はカッと目を見開いた。


「ハァ!!? 調子ノんなよテメェこのクソ痴女!!」

「ははは!」

あー、青春してる。楽しい。
……って思ってるのは俺だけかもしれないけど。




* * *



確実に爆破を当てる気でいたのに、案の定と言うべきか。ギリギリのところで避けられた。

いとも容易く投げられて見下ろされて。
そんな状況、腹立たしい以外の何物でもない筈だ。

それなのにあの時のアイツの、恍惚とした表情が目に焼き付いて離れない。



「攻めたね日紫喜〜」

「ちょっと最初、動揺しちゃったんだけどな。なんとか頑張れてよかった。爆豪がもう、格好いいやら可愛いやらで、本当に良き時間だった……」

「いやー、爆豪からイニシアチブ奪えんのって純粋にスゲェと思うわ」

教卓に肘をついて、痴女はどうやらこの前のことを話しているらしい。日直で黒板を消している黒目と、暇そうな顔してるアホ面に。

なんなんだ本人のいる前でよォ……
恥じらいとかねえんかコイツァ……


「じゃあさ〜…………」

「なるほどね、ファンサとしてなら全然やれるよ。
 ん、──どう?」

「ぐ、う……っ!! 面が……面が良い……!!」

「可愛いな芦戸……」

「あああああもういいよストップストップ」

「いやだ」

「ッッ日紫喜〜!!!」

女子がキャーキャーうるせえ……!!
教室のクソな盛り上がりにチラ、と視線をやる。

痴女が黒目を黒板に追い詰めて壁ドンしていた。
それだけに留まらず、頬を撫でて甘ったるい空気をつくっていた。

あ、あれを俺にやる気か!? 鳥肌モンだわ何をしとんだ。俺ァ女子じゃねぇぞアホか、アホなんか?


「はぁ、破壊力がやばい……スカート履いてても雄みが強い……」

「これを女子力にしないといけないんだよな……切島、ちょっと練習させてくれ」

「お、俺かよ!?」

「爆豪に一番身長近いだろ? 男子ン中で」

クソ髪が戸惑いながら俺に一瞥をくれたのがわかった。が、我関せずを貫いて無視。
ニヤニヤと悪ノリした黒目に、クソ髪は引っ張っていかれた。


「ホラ、切島? 爆豪だったらそこで俺を睨み付けるだろうからさ、目線、合わせて?」

「いや、ち、近くねぇか!!?」

「そうか? 芦戸の時より距離あるけど」

「日紫喜、次俺も! 練習台になる!」

「俺も俺も!!」


あ"あ"クッソ、イラつく。
つーか練習に他人を使ってんじゃねェよ、


………………あ??


ふと変なことを考えた気がして、俺は考えるのを止めた。


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