星降る夜に | ナノ


 オーダーメイドの苦難

お昼の後、歯ブラシなんかの日用品も買って家に帰り、荷物を置くとだいぶ日が傾いていた。てんこくんの体力はまだもつかしら。

「ふー、疲れてるかもしれないけれど、今から制御アイテム作りに行こうと思うんだ……まだ動ける?」
「うん!大丈夫」

元気良く返事をしてくれて、ぱっと目を輝かせた。
期待に沿うような良いものができるといいな……

ところで、少し距離のあるその工房には電車で数駅行かねばならない。駅について子供料金の切符を渡すとてんこくんはとても嬉しそうに改札へ通した。入ってきた電車を見るのもキラキラとした表情になっている。

こういうところはやはり男の子らしくて微笑ましくて、やっぱり少し笑ってしまったけれど、今度はムッとされなかった。



「ようみょうじさん。誘拐してきたのかその坊主」
「そんなところよ、こんにちは。先月ぶり」
「否定しろよ」

カランコロンとドアベルが私たちの訪問を告げ、工房の店主と慣れたやり取りをする。仕事の関係で長い付き合いのある、信用できる男だ。

と、服を引っ張られる感覚がしてそちらを見ると、てんこくんが私の後ろに隠れていた。ああ、店主、顔厳つくて恐いものね。半身に少し鱗生えてるし。

「営業スマイルぐらいしてちょうだい、この子小さいんだから」
「したら逆に泣く客が多いんだが?」
「……うん、ごめんねそうよね」
「納得してんじゃねえぞ」

からかうとより恐い顔になってしまったけれど、大丈夫よ、とてんこくんに前へ出るよう促し、彼の個性制御アイテムを造って欲しいと店主にお願いする。

「へえ……じゃあまずは個性の発動見せてもらおうか。実際見ねえと良いもん造れねえから。ほらよ、これ」

個性の概要を伝えると店主は鉛筆をてんこくんに差し出して、私にはバケツを渡した。このバケツで塵を受けろということらしい。
てんこくんはつまむように鉛筆を受け取ってから、そっと全ての指を添えて木屑に変えた。

「もう一度」

今度はこれを、と次々に形や材質の違うものを渡され、左右の手で交互に崩壊させる。バケツの中に崩れた破片が増えていく。じっと様子を見てはメモを取る店主は、最後に予想外の物を取り出した。

「虫は平気か?」
「え、うわっ」
「ほれ」
「やだやだやだ」
「ただの極太ミミズだ耐えろ。生体の崩れ方も見たい」
「なまえ!」

水槽にのたうつそれを、大きなピンセットで摘まみ近づけてくる店主を前に、てんこくんは助けを求めるように引きつった顔で私を見た。

「一瞬一瞬。頑張れてんこくん!」
「!いやだ、うわうわうわああああ……」

……言っておいてなんだけれど容赦ないわね……
無事に個性のチェックと採寸を終えると涙を滲ませたてんこくんが抱きついてきたので、労りの言葉をかけながら背中をとんとんとしてあやす。

「ふん、この歳にしてはかなり強力な個性だからな……五指がぶつかりにくい小指か人差し指に装着するタイプが妥当か……生活の邪魔になりにくいのは小指、攻撃手段のオプションを着けるなら人差し指。まあ小さいうちは小指でいいんじゃねえか」
「どう?それで良い?」

てんこくんは、おえ、とえづきながらこくりと頷いた。昨日、人を塵に変えていた少年はワーム系の虫には弱いらしい。

「一応聞くけど保険は」
「無いわ」
「ん。一週間後にまた坊主連れて来てくれ」
「一週間後にできるって。お疲れ様、てんこくん」
「すごく……つかれた……」

こんなに連続で個性を使ったことも初めてだったらしい。
店を出れば、西の空に僅かに残った明るさを深い夜の色が追い込んでいた。

「夕飯も食べて帰ろっか」
「ん……」

眠そうな彼はなんとか夕飯は食べきったものの、帰りの電車で限界を迎えたらしく可愛い寝息を立てはじめた。おんぶして家まで帰って、またソファーに寝かせる。

今住んでいるのは、やや広めの2LDK。倉庫にしている部屋をてんこくんに空けるべきか。家具も揃えなきゃね……明日てんこくんに相談してみよう。

小さく鼻歌を歌いながら、今日する予定だった仕事を片付けようと、珈琲を入れてパソコンを起動した。

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