星降る夜に | ナノ


 もし夢主が先生の話にのったら

「なまえ君と言ったか。生きづらい個性を持つ子供たち専門の学校の話、私も非常に良いと思う。こちらで支援したいくらいだ。どうかな」


和やかな空気に重ねるように、モニターの中の先生は明るい調子で言った。けれどそれは敵養成所になってしまいそうな申し出。


「ふふ……賛同を得られるのはとても嬉しいけれど、お気持ちだけ戴きますね。こう見えて私、資産はそこそこあるの」

「一筋縄では行かないね」
「お褒めに与り光栄だわ、先生」


あちらの意図を、私が汲み取った上で流したことを……読み取られた?
なんだろう、将棋でもさしているような気分。穏やかな会話は終わりかな。


「では話を変えよう。君の個性についてだが、君自身、どう思っている?」

「……ハンデだと思っていた時もあったし、その一方で得た出逢いもあるから……一言では形容できない」


予想外の質問に、思っていることをそのまま答えた。
この個性がなければ、私は転弧くんと会えていない。あの夜うずくまっていた彼を助けられなかったのだ。
今まで経験してきたさまざまな出逢いは、私を救ってもくれたし孤独へ突き落としたりもした。


「では単刀直入に言おう。他の個性と交換する気はないか?」
「交換? そんなことが?」

「先生! ……話が違うぞ」
「話って? 転弧くん」
「別に……なんでもない」


振り返って転弧君に尋ねる。深くは聞かれたくないようで、はぐらかして視線を逸らされたけれど、私の個性の交換について二人の間で何か取り決めをしていたということ?


「もちろん無理強いはしない。ただ、これから弔を支えてくれるであろう君に、できれば彼をサポートできる個性を持っていてもらいたいんだ」


確かに、できるものなら実戦に向いた個性に交換してもらった方が都合が良い。私は守る力を手に入れられて、しかも不老から解放される。先生は転弧くんを守る駒と、不老の個性を……必要なのかは知らないけれど……手に入れられる。
先生は雄弁に言葉を紡いでいく。


「長く、果てのない人生の旅路は、常人には耐え難い孤独感だ。君はよく……耐えたね。愛する人を看取り、自分を苛みながら与えられた生を消化して、ひとりでずっと、今がいつなのかも忘れるほど」

「やめて。お互いにメリットしかないことを分かっていて持ちかけた話でしょう。交換ができるなら喜んでするから」

「なまえ!」


堪えきれず話を制してしまった。トドメのつもりなのかしら。焦った声音で私を呼ぶ転弧くんに構わず、私は静かな声で苛立ちをぶつけた。


「真綿で首を絞めるのが趣味なの? 同調しながら抉らないで」

「……気分を害させて、すまなかった。では日を改めてまた。今日はゆっくりと休むといい。これからよろしく、なまえ君」


先生は意外と沈んだ声で謝罪して、ブツリと通信を切った。甘言や念押しの意味合いだけでなく、あの人も心のどこかで思っていたこと、なのかしら。
だったら少し申し訳なかったな……


「いいのかよそんな簡単に決めて。さっき言ってた学校とか」

「いいのよ。夢を叶える普通のヒトは、ちゃんと80年程の寿命内で叶えて生ききるんだもの。先生は……叶えられていないようだけれど」


超常初期から生きていて、未だ積極的に行動しているということは、何か野望があるのにまだ達成していないんだろう。

ここに来ることを選んだ時点で私個人が学校を創設するのは難しい。けれど別に創立者として名を刻みたいわけではないんだから、代理を立てて投資するでもいいしやり方はいろいろある。

だけど、転弧くんの傍にいてあげられるのは私の特権。


「よろしくね。転弧くん、黒霧くん」


ただいま、裏の世界。

prev / next

[ 表紙に戻る ]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -