もし夢主が雄英から敵落ちしたら
「死柄木、その生徒とはどういう関係で……
保護者とはどういう意味です」
私たちを転移させた個性の人が少々厳しい口調で転弧くんに問い質す。転弧くんは私を抱えて黙ったまま。腕の中に閉じ込められると体格差が顕著になるわね。ほんの少し前まで私が抱っこしていたのに……
仕方ない、このまま自己紹介しましょうか。
「はじめまして、みょうじと言います。
この子が幼い頃、10年ほど一緒に生活していたの。
不老の個性で、もう50年ぐらいこの見た目よ」
「それはそれは……私は黒霧と申します。
死柄木のお世話などをさせていただいております」
「そうだったのね……
転弧くんのこと、ありがとう、黒霧くん。
死柄木というのは転弧くんのことね?コードネーム?」
「……まあ、そんなとこ」
黒霧くんは正直なところ、まだ私を警戒しているのでしょうね。転弧くんが離さないから仕方ない、といった感じかしら。
「そういえば、一緒に連れてきた子達は……
皆置いてきちゃったのね」
「なまえ、なんで雄英なんかにいたんだよ」
至極当然な問いをやっぱり投げかけられて、私は少し言い淀む。入学の本心の動機を言うのは少し恥ずかしい。けれど今後の円滑な関係を築く為には正直に話したほうが良いか。
「転弧くんが出て行ってからいろいろ考えてね。
生きにくい個性の子の個性を制御するための学校とか
創れたら面白いなって思って……。それで、
天下の雄英高校はどんな教育してるのかしらって
産業スパイしようと思って頑張って入学したのよ」
「なんだそれ……じゃあ、来ちゃだめじゃん……」
尚も私を膝の上に乗せたまま発せられた、呆れた様な口調。行動と口調の不一致感がなんだか可笑しくて、笑いを漏らして答えた。
「大丈夫よ、私には馬鹿みたいに時間があるんだから。
今、優先したいことを優先したの。
また会えて嬉しいよ、転弧くん」
「そういうこと言う……」
頭を肩口に埋められて掠れた声が漏れる。頬をくすぐったやわらかい髪を撫でると甘えていることが分かった。良かった。……嫌われてなかった。
『お帰り、弔』
パソコンの通信が入って、ここにいない人の声がこの場に混ざる。なにかしら、聞き覚えがあるような……
「その声……?
昔、お会いしたことあったかしら……?」
「ああ、もう随分前になるね。超常初期だ」
「まあ……!同士ね。嬉しいわ」
画面の向こう側から予想外の肯定の返事が返ってきた。でも流石によく覚えていないわね。
「おい……聞いてねーぞ先生」
「あら、先生?……転弧くんがお世話になってます」
「なんで普通に挨拶してんの」
「なんなんですかこのやり取り。
私を置いていかないで下さい」
転弧くんと黒霧くんの反応が可笑しくてくすくすと笑ってしまった。どうしてだろう、全然怖くない。
私を包んでくれている体温が変わらず温かいから?
皆、暗がりの中でも"生きて"いるから?
……"敵連合"はきっと反社会組織だし、目的には賛同しかねるけれど、この人たちが愛しいと思う気持ちにも嘘はなかった。
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まだ続きます
なで様リクエストありがとうございました!
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