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 天ぷら

久しぶりに二人そろった休日。どこに行くでもなく部屋でごろごろしていたら、いつの間にか窓から西日がさしていた。

「今日の夕飯何にしよっかー」
「んー、なんでもいいよ」
「なんでもいいって一番困る……」

どっかの母子みたいな会話だけど、あたしたちはれっきとした恋人同士。三年も一緒にいると、倦怠期を通り越して熟年夫婦みたいになってくる。付き合いたてのドキドキは薄れてきたけど、穏やかな今の雰囲気も悪くない。

何にしよっかなー……魚と野菜は買ってこなくてもあるのよね。
そうだ!てんぷらにしよう!!


「カカシー、今日てんぷらにするよ!」

満面の笑みでカカシに言うと、カカシはイチャパラに向けていた目を、さっとこちらへ向けた。

「……てんぷら、この前もじゃなかった?」
「えぇ?今月はつくってなくない?」
「そうだっけね……」
「なによー、嬉しくないの?」

カカシ、てんぷら大好きでしょ?嬉しくないの?

「あ、いや、嬉しいよ!てんぷら大好きだし!毎日食べても飽きないくらいだよ。でも、お前は飽きちゃわないかなーなんてね。ハハハ。……あ、手伝おうか?」


なーんか、妙にテンション高くない?

てんぷらが絡むと、カカシはいつもこんな感じだ。
そんなにてんぷらが好きなんだろーか……。

「別に飽きないよ?じゃあ一緒に作ろっか」

確かによく食卓に並べているきはする。でも、好きな人の好物だしね。









「おいしい?」
「うん、おいしいよ」
「そっか、良かった!カカシはてんぷらが出るとゆっくり食べるね」
「あー・・・・・・好きなものは味わって食べたいんだよね」
「なるほどー」

 サクサクに揚がったてんぷらを二人で食べていると、窓を叩く音がした。

「あ、アスマ!」
「よう、カカシいるか?」

カーテンを開けると、アスマがたっていた。

「何だよアスマ、任務?急いでるからって窓から人んち覗かないでちょーだいよ」

そう言いながらこちらへ来たカカシは、さすが上忍。
もう額宛てとベストをばっちり着込んでいる。

「飯食ってるとこ邪魔して悪かったな」
「ううん、急な任務なんでしょ?」
「夕飯残してごめーんね。さっさと終わらせてくるから」
「うん、待ってる。……二人とも気をつけてね」


頷くカカシとアスマ。

じゃ、行ってくるよ。カカシが窓からでようとした時、
アスマが何かに気づいたように部屋の中をみた。

「天ぷらって……おまえらケンカでもしたのか?」

ニヤニヤ笑うアスマ。

「ケンカ…?なんで?」
「アスマ!余計なこと言うなよ」
「嫌いなもの食べさせるなんて、お前も結構古典的だな」
「嫌いなものって??天ぷらはカカシの好きなものでしょ?」

 そう言うと、笑っていたアスマは、目をまるくした。

「……あー、なるほど」


またニヤニヤ笑いはじめたアスマ。
あたしは訳がわからなくて首をかしげた。
カカシは何故か焦ったように、いいから早く行くぞ!ヒゲ男!と言って、
アスマを引っ張って窓から出ていってしまった。









それから数日後、

「アスマから聞いたわよ。あんたってカカシから愛されてるわねー」

どっかの誰かとそっくりなニヤニヤ笑いでそう言ってきたのは紅だった。

カカシの好きな食べ物は、茄子のお味噌汁と秋刀魚の塩焼きと、天ぷら。
彼女として、知ってるのは当然だと思ってたこの知識が実は間違いだったことを、あたしはこの時知った。


カカシが本当は、天ぷらが嫌いだったなんて……!!


もちろんその話を聞いた晩に、あたしはカカシを問い詰めた。

「何で隠してたの!?それどころか好きって嘘までついて。騙してたのね!」

どんな昼ドラのセリフだよ、という感じだけど、対象は天ぷらについてである。
だけど、あたしは大まじめだ。だって、三年間だよ?三年間も一緒にいて、カカシの嫌いな食べ物も知らなかったなんて!!

アスマも紅も知ってたのに。それって、彼女としてどーなの!?

大体何でそんな嘘をついたのか。むかつく以上に悲しいよ。

問い詰めたあたしは、泣きそうだったかもしれない。


「えっと…ごめんね?騙したかったワケじゃ、なかったんだけど…」

そういって頭をかきながら、カカシはどうにも歯切れが悪い。

何よ何よ。どーいうこと!

じっと見つめるあたしに、もう逃れられないと観念したのか、カカシはしどろもどろに語りはじめた。


「つまり……なんていうか、その…言い出せなくってさ…」








お前が最初に作ってくれた手料理が、天ぷらだったんだよね。


そういって、カカシは照れくさそうに頬を掻いた。



―――付き合ったばかりのとき、初めて作った手料理を、カカシはすごく嬉しそうに残さず食べてくれたっけ。
美味しい美味しいって喜んでくれたから、あたしもすっごく嬉しかった。


「あー……そういえば、てんぷらだったねぇ」

「嘘つくつもりはなかったんだよ。嬉しかったのはホントだし……それからも、よく作ってくれるから何だか今更言い出せなくなって」

 苦手だけど、食べれないって訳じゃないし……。

しどろもどろに弁解するカカシは、いつもの飄々とした態度はどこへやらだ。


「カカシって……かわいいね」
「かわいいはないでしょーよ」
「だって三年間も……!
やばい、何か久しぶりにときめいた!!」
「ちょ、久しぶりなの?」

「もっと好きになった!惚れなおした!」
「……あんまり褒めないでよ」
「あはは!カカシの顔真っ赤だよ?」
「おまえもね……」

だって、すごくすごく嬉しいんだもん。

「三年間も天ぷら好きなふりしてたなんて…かわいすぎる!」
「もー、笑いすぎ……」
「あたしって愛されてるんだね」
「……あんまり調子にのるんじゃないの」
「今夜は茄子のお味噌汁にしよっか。天ぷらは封印だね」


「んー、でもお前の作る天ぷらは、けっこう好きだった、かも。三年間も食べさせられるとね……。」
「だってカカシの好きなものだと思ってたんだもん。……まぁ、カカシは天ぷらよりあたしが大好きだったみたいだけどねー」
「だから調子のるなっていってるでしょーよ…」

そっぽを向いたカカシはまだ顔が赤い。

あたしは何だか幸せになって、大きな身体を抱きしめた。




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