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 肩こり




この部屋ちょっと冷えすぎじゃないか。くしゃみを一つして、自分の腕を抱き締める。ソファに横になって、眠ってしまっていたらしい。冷え切った体が強張って、首と肩まわりが重たい。待機所のソファって少し硬いんだよね…昼寝には適してないかも。体を起こそうかと思っていると、ふぁさ、と上から布を被せられた。

「こんなトコで昼寝するんじゃないよ」

白いブランケットから頭を出すと、カカシがあきれ顔で私を見下ろしている。昼寝する前は、待機しているのは私一人だけだったんだけど、いつの間にかカカシが任務から戻ってきていたみたいだ。他には誰も見当たらない。

「おつかれー…これどっから出してきたの?」
「その辺に畳んで重ねてあったやつ。お前みたいに昼寝する奴の為に置いてあるんじゃ無い?」
「へー…手厚いね…へっ…へくしゅっ」
「風邪引くぞ…」

カカシは私の横に腰を下ろして、いつもの文庫本を広げた。私はありがたくブランケットにくるまりながら、体を起こした。ぼさぼさ頭を手ぐしで整えながら、首をまわすとコキコキと音が鳴る。肩がこりすぎて若干頭も痛い…。

「随分とお疲れみたいだけど…」
カカシがちらりと私を見た。
「うん…はあぁー…」
「どーしたの、溜息なんかついちゃって。お前らしくも無い」
「んー…」

生返事しながら、肩を動かす。私って普段、そんなに悩みなく見えるのかな…。まぁ自分でも明るいだけが取り柄だとは思ってたけどさ。私だって疲れが溜まるお年頃なんだよう…。

「肩こってんの?」

いきなりカカシの右手が、私の左肩にのった。びくっとしている私に構わず、ぐりぐりと指圧される。
「うっ…」
気持ちよくて変な声が出てしまう。色気は皆無だけど。

「あー、こりゃ凝ってんね」
「でしょー…?ひうっ!」

肩を確かめるように揉んでいた手が首根っこに移動した。そのままツボを探り当てるみたいに、絶妙な強さで押される。

「ふああ…気持ちいー」
「ククク…」

何が可笑しいのかカカシは喉を鳴らして笑いだす。
「あっち向いて座って」
素直に履物を脱いで、ソファの上に足を投げ出し、カカシに背中を向けた。大きくて暖かい手が両肩にのって、強い力で凝ってるところを的確に揉んでくれる。

「んっ…あっ…あー」
「……」
「はっ…すごい…」
「何がスゴイの?」
「だって…何で凝ってるとこわかるの?上手すぎ…」
「んー、何でだろうね」
「お店出せるレベルだよ…」
「じゃあ忍は廃業しようかな…」

カカシの冗談にくすくすと笑っていると、「背中も揉んであげようか?」と言われた。
「いいの…?」とうろたえていると、「うつ伏せになって」と優しく言われる。
ブランケットを敷いたソファの上、うつ伏せになった私の腰の辺りにカカシがまたがって、さすがにこれは…同僚に対して甘えすぎかも、と思っている内に、肩甲骨のまわりを揉みほぐされて、気持ちよすぎて頭がぼんやりしてきた。涎でそう…。

「あー…だめ」
「だめ?」
「変なっ…声でちゃう…」
「気持ち良い?」
「うん…」

なんか…気持ちよさと同時に、カカシにこんな事をさせている罪悪感もわいてきて…いけない事をしている気分だ。

「はぁ、カカシ。もう良いよ」
「何で?」
「だって疲れちゃうでしょ…」
「オレは疲れないよ。楽しいし」
「楽しいの?…っあ…」

休み無くカカシにマッサージされて、気持ちいいやら申し訳ないやらで涙出てきた。

「で、何でこんなに凝ってんの?」
「うーん…何でだろ…最近部隊長に任命される事が多くなったからかなぁ…」
「なるほど。お前も出世したもんだねェ」

カカシに言われると嫌味に感じてしまう……。同じ上忍でも、カカシと私のキャリアは雲泥の差だ。追いつきたくて必死に追いかけても、どんどん先を行かれてしまう。何年も前から、ずっと縮まらない差だ。

「カカシは最近下忍の子達見てるんだっけ?」
「うん。お前は?中忍と組む事が多いの?」
「そうだねー…まだまだ、Bランク任務に慣れてない子達が多いかな」
「そりゃ大変だ。ご苦労様」

話しながらもカカシは手を止めない。ほんと、お店でも出せそうなくらいマッサージが上手い。何をやらせても器用な男だなぁ。凝りをほぐされて血行が良くなってきたのか、体がぽかぽか温かくなってきた。そしたら気持ちも緩んできて、最近こんな事があってさ、という愚痴みたいな事がうっかり口から滑り出た。カカシは私の話を聞きながら「へぇ、それで?」「あー、それは困るよね」なんて調子で、どこまでも優しく相づちをうってくれるのだった。調子に乗ってどんどん話してしまう。

「きっとさぁ、口うるさい先輩だなって思われてるんだろうけど。でもさ、憎まれてでも誰かが教えなきゃいけない事だよね」
「うんうん。色んな経験をしてきたお前だからこそ、的確な指導ができるんだろうね」

カカシにそんな風に認めて貰えるのは、なんだかすごく嬉しかった。

「後輩ちゃんも多分、自分のためを思って言ってくれてるんだなって、ちゃんとわかってるよ」
「そう、かな……?」
「ああ。ちゃんと先輩やってて偉いよ」

カカシの優しい言葉のひとつひとつが、ささくれた心に染みてきた。体と心が緩んで、涙腺まで緩んでしまったんだろうか。

「カカシありがと…」
「オレは思ってることを言ったまでだよ」
「マッサージも。ありがとう!」
「オレも楽しかったから気にしないで」

マッサージするのが楽しい人なんているのか、と思いながら体を起こした。

「ね、カカシのこともマッサージしてあげる」
「えー?オレは別にいいよ」
「なんで遠慮するのよ」
「お前に揉まれたら痛そうだし」
「どういう意味よ…!」
「それより……遠慮しないで入ってきたらどーですか?」

カカシが急に声を張り上げた。何事かと思っていると、待機所のドアがゆっくりと開く。

「あ、アハハ…何か取り込み中みたいだったから。別に、聞き耳立ててたってわけじゃないですよ?」
「エビスさん」

何故か顔を赤くしたエビスさんが、遠慮がちに入ってくる。

「あー、コホン。火影様がお呼びですよ…もう30分くらい前から」
「えっ!?何で早く教えてくれなかったんですか?」
「お二人が…いかがわしい事をされていたからじゃありませんか!」
「へ!?」
「ハハハ…お前が良い声でないてたから勘違いさせちゃったみたいね」
「ないてたって…はあ!?」
「それじゃ私はこれで…」
「ちょっと、エビスさん…!!勘違いですよ…!?」

エビスさんは慌てた様子で部屋を出て行ってしまい、背後でカカシがクスクス笑う声がした。


はーーーーー。

私は深い溜息をついて、がっくり肩を落とした。




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