拍手お礼短文ログ | ナノ
 オレの幼馴染み



一人暮らしをしていると一人言が多くなるというのは本当で、任務を終えて帰宅した時なんかは特に、口から「あー疲れた」だの「しんどい」だの色々な言葉が飛び出したりする。
「あいつのどこがそんなにいいんだか」
今日オレの口から飛び出た言葉の女々しさたるや、情けなくて自分でも泣きたくなるほどで。誰にもお聞かせできないし、間違っても幼馴染みのあいつには聞かせられない。

最近のあいつは口を開けばゲンマゲンマうるさくて、やれ挨拶してくれた、やれ落とした物を拾ってくれただの、アカデミー生かお前はとつっこみたくなるような事を嬉しそうに報告してくるのだ。あんな目つきの悪いやつの何がそんなにいいんだか。頬を染めてゲンマの事を話す幼馴染みの表情はそれまで見た事の無かったもので、適当に相づちを打ちながらも、オレはイライラしているのを隠すので精一杯だった。……どーしてオレみたいな男前が昔っから側にいるってのに、よその男に惚れちゃったわけ。

額あても手甲も外して、泥だらけの服を脱ぎ、風呂場のドアをあけた。蛇口をひねり、水から熱いお湯に変わったところで頭からシャワーを浴びる。土埃をあびた髪を湯が流していくのが心地よかった。『カカシの髪の色って本当に綺麗だよね』いつか言われた言葉を思い出す。自分では何とも思っていなかったが、彼女に褒められれば悪い気はしなかった。シャンプーを手に取り根元から髪を泡立てていく。何となく気持ちがすっきりとしていく。任務を終えて里に着いたのは夕方で、待機所にあいつはいるかな、と思って顔を出せば案の定、そこに幼馴染みがいた。顔が見れて嬉しいと思っているのは多分オレだけで、『カカシなんか土っぽいね』といって彼女は笑った。土っぽいって何だ土っぽいって。最近は下忍の指導で畑仕事やらイノシシ討伐やら泥臭い任務ばかりしているので、実際に動き回るのは子ども達にしても、ドジったナルトが罠として自分で作ったはずの落とし穴に落っこちようとするのを防いだり等さわがしく過ごしていると、多少は土埃をかぶってしまったりもする。

再び蛇口をひねって泡を流しながら、考えるのは今日彼女が話していた内容ばかりだった。『今日はゲンマさんと任務だったんだけど、緊張しまくっちゃって。任務は失敗しなかったんだけど、全然雑談とかできなくて……あまりに私が行きも帰りも黙ってるからゲンマさんに心配されちゃうし……』とにかく面白くない。どうして惚れてる女の口からその想い人の話を聞かなきゃならないんだ。全く男として意識されていないために何でもかんでも話してくる幼馴染みに「お前が好き」なんて言ったらどんな顔をするだろう。きっと困らせて気まずくなるだけだ。

髪をタオルで軽く拭き、石けんで体を洗い始めた。『これすごくいい香りなんだよ!カカシにもあげるね』沢山買ったという柚子の香りの石けんもしょっちゅうお裾分けに来たりする。オレもあいつの家にはよく入り浸りにいくものの、あいつだって無防備にオレの家に遊びにくるし、なんというか……家族のように思われているのは、決して悪い気持ちでは無く。ただ、長い間あいつだけを見てきたオレの気持ちなど一切気づかず頭をなでてもふざけて抱きしめても笑うだけ。あげく他の男を好きになるってどーゆーことなのよ。鬱々と考えつつも、全身を包む柚子の香りの泡には癒やされてしまう。いつかも酔っ払ったふりをして抱きしめたら彼女からこんな匂いがしたっけ。彼女自身の匂いとまざって何とも言えない甘くていい香りがしたのだけど、オレが抱きしめてもあいつは頬を染めるどころか「酔いすぎだよ」と爆笑される始末。そう、オレは笑われるだけの男なのだ。さすがに悲しくなってきた。あの時もずっと抱きしめていたら、あいつは眠ってしまったっけ。無防備にもほどがある。寝顔は可愛いし、全く意識されていないことが辛いし。ため息しかでない。

なぜシャワーを浴びている時にはいつも彼女のことばかり考えてしまうのだろう。全身の泡を流して脱衣所に出た。バスタオルで乱暴に水気を拭き取って、もうもうとたちこめる湿気から逃げるようにキッチンへ移動し、コップに水を注いでごくりと一気に飲み干した。ピンポーン、と甲高いチャイムが鳴った。誰だろう?気配を探れば見知ったチャクラだ。「カカシー?いないのかな」インターホンなんていう便利な物はないので玄関ドアを開けるしか無いのだが、さすがに全裸でドアを開けるわけにもいかず、あいつ忍なんだからオレのいる気配くらい読めなきゃ駄目だろうと思いつつ、このまま彼女が帰ってしまうのは嫌だったので、結局バスタオルをさっと腰に巻いただけの状態で玄関にむかいドアを開けた。「あ!カカ……ぎゃああああああ!」「……化け物でも出た?」「なななななんてかっこしてんのよ」さすがに顔を真っ赤にしてる彼女を見れたわけだが嬉しいとは思わなかった。オレもそこまでの変態では無い。「まー、上がれば」そう言えば、かたまっていた幼馴染みは若干の時間を要したものの立ち直り、おとなしくオレに続いて部屋に入ってきた。はーほんと無防備にもほどがあるでしょ、ちょっとは考えなさいよと言いたいけど言わず、心の中で大きなため息をつくのだった。

------
20170426

シャワーを浴びるカカシが書きたかっただけの話。作者は病気←
短編「わたしの幼馴染み」のちょっと前の話です。
なんかお風呂入ってるときって好きな人の事考えたりしませんかね?


prev / next


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -