拍手お礼短文ログ | ナノ
 耳鳴り


「オレから逃げられるとでも思った?」

刃物のように冷たい声。掴まれた手首が締め上げられて、爪がくいこむ。

「……イタチの為なら里を抜けるって言ってたのは冗談じゃ無かったわけだ」
「冗談であんな事言いません……」
「救いようのない馬鹿だねお前は」
「……」

振り向かされて、じっと顔を見下ろされる。尖った指先に頬を撫でられた。

「あいつはお前の事なんて何とも思ってないよ」
「……」
「追いかけて行っても殺されるだけだ」
「イタチはそんな……っ」
「そんな奴じゃないって?……脳天気もそこまでいくと才能だよ」
「……」
「今すぐオレと里に戻れ」
「……嫌だって言ったら?」

緊張に喉が引き攣った。肝心なところでどこまでも強気になれない自分が嫌になる。

「どうなるか、言われなくてもわかってるんでしょ」

冷たい殺気を向けられる。わかっていても身が竦んだ。この人にこんな眼で見られたことがこれまであっただろうか。いつも、安心して背中を預けられたこの人の事を、裏切ったのは私だ。

「ごめんなさい……先輩」

でも、私は行かなくちゃ。先輩の手を振りほどいて間合いをとる。どうやってこの場を切り抜けよう、と考えている余裕もなくカカシ先輩が赤い左目を露出した。あの眼を見ては駄目だ。
すぐに目をそらしたけれど、相手の目を見ずに戦うなんてやはり無理がある。ましてや相手はあのカカシ先輩だ。

小競り合いと呼べるほどの戦闘にもならず、私はまたカカシ先輩に腕を拘束されていた。

「待てって言ってるでしょ。……あいつに会ってどうするつもりなの」

先輩の声は張り詰めていた。さっきまで怒りに燃えていた瞳に、痛切な色がちらつく。
会ってどうするつもりなのかと問われても、何も答えられない。自分でも、どうしたいのかなんて解らない。

ただ、どうしてもイタチに会いたかった。会って一言いってやりたかった。何で黙って行ってしまったの、と聞きたかった。

イタチが私に何も話してくれなかった理由なんて、わかりすぎるほどわかっているのに。カカシ先輩がさっき言ったとおりだ。私はイタチに何とも思われていなかった。ただの幼馴染みである私はイタチにとって、殺すほどの価値も無い女だったのだろう。

「……っ……」

こんな所で泣いている場合では無いのに。ぼたぼたと雫が零れて、私の腕を掴む先輩の指を濡らした。先輩が手の力を少し緩める。指の痕が鬱血して赤く残りそうだ。

「オレが側にいるから」
「え……?」
「あんな男の事なんて忘れなよ」

突然その腕の中に抱き締められる。先輩の体からは雨の匂いがした。……またイタチを思い出して、すんと鼻を啜る。

「忘れることなんて……」
「忘れさせてみせるよ」

マスクを引き下ろした先輩の顔が近づいてくる。動けずにいるのはその瞳力のせいだ。そんなものに頼るなんて、言葉とは裏腹に弱気なことだ。どこまでも非情になりきれない彼の舌を受け入れながら、私は目を閉じた。耳奥で鳴り止まない雨の音がする。


※NARUTO 48巻でカカシ先生が言ってたセリフ「待てって言ってるでしょ!」「会ってどうするつもりなの」がツボすぎて書いた話



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