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 シュークリーム

手のひらよりも大きいシュークリームを両手に持ってあーーんとかぶりつこうとしていたら、
「あれ?ダイエットしてるんじゃなかったの?」
と意地悪な先輩の声がした。私は間抜けにも大きな口を開けたまま固まった。悪戯が見つかった子供のような心境で恐る恐るカカシ先輩の顔を見上げる。

「これはその…貰い物でして」
「ふうん?貰ったものは食べてもいいんだ?」
「だって…断るのは失礼ですし…」

言いながら私は冷や汗をかいていた。この間、カカシ先輩が私にプリンをさしだしてきた時には丁重にお断りをしたのである。先輩の目がぎろりと鋭くなるのは当然だった。

このシュークリームはさっきまでここにいた、暗部の先輩がくださったのだ。『甘いもの好きだったよね?ここのシュークリーム美味しいよ』とわけていただいた。男の人にしては珍しく甘党な方で、沢山買い込んでいたらしい。気前のよい方だ。

「へえ、あいつにもらったの」
「は、はい……カカシ先輩ももう少しはやく来てたらわけてもらえたんじゃないでしょうか。あ!先輩これ半分食べます?」

私が言い終わるよりはやく、先輩は私の手からシュークリームを取り上げた。

「ああ!」
「オレ甘いの嫌いなんだけど」
「え、あ、そうでしたよね」
「でもお前が太っちゃったらかわいそうだから、オレが食べてあげるね」
「ええ!」

カカシ先輩は突然マスクを下ろして、私の目の前でにっこり微笑むと、ぱくりとシュークリームにかじりついた。
「甘……」
眉根を寄せながら、険しい顔でむしゃむしゃ食べていく。あれよあれよという間にシュークリームは半分以上先輩の口のなかにおさまっていった。
嘘でしょ、全部食べちゃうの!?

声も出せずに見つめていると、カカシ先輩はようやくちらりと私を見た。私の絶望に染まった表情を見て、カカシ先輩はそれはそれは満足げに、にやりと笑った。

「先輩ひどい!」
「オレ以外の男の餌付けにひっかかるお前が悪いんでしょーよ。この前は断ったくせに」

カカシ先輩はやっぱり、先日の事を根に持っているらしい。カカシ先輩はなぜか、なにかというと私に甘いものを食べさせようとするのだ。自分は食べないくせに。

最初のうちは嬉しかった。なぜカカシ先輩が私に甘いものを食べさせたがるのかは謎だったけれど、食べている間、大好きなカカシ先輩とゆっくりおしゃべりができるのは幸せだった。先輩はその間ブラックコーヒーしか飲んでいなかったけれど、いつも忙しい方だから、一緒に過ごせる時間は貴重だった。

しかし、私は最近とある問題に直面していた。……なんだか、太った気がするのである。仮にも暗部である私が、太るってどういうことだ。恐る恐る体重計にのってみたところ、案の定、厳しい現実を数値で突きつけられたのだ。そんなわけで、私は先日カカシ先輩に向かってダイエット宣言をしたばかりなのである。

「オレがあげると断るくせに他のヤツからは受けとるってどういうことよ?」
「……すみません」
「謝ってるだけじゃわからないんだけど」
「その……とりあえずカカシ先輩から甘いものをいただくことをやめれば…それだけでダイエットになるってくらい、先輩から甘いものをもらってたので……」
「……」
「そもそもなんで、私にいっつも甘いものくれるんですか!私を太らせてどうする気なんですか!まるまるふとらせてたべる気ですか!!」

半分冗談のつもりで言った言葉に、カカシ先輩はくすりと笑って「まあ食べるってのはあたってるけど」と恐ろしいことを言った。

「え!?……むぐ!」

私の口のなかに先輩の食べかけのシュークリームが押し込まれる。ビックリして慌てて口を閉じたら、シュークリームの皮がやぶけて、カスタードがぼとりと落ちた。咄嗟に手でクリームを受けとる。

「あーあー……汚しちゃって」
「むぐー!(先輩のせいです!)」

甘ったるいクリームをもぐもぐしていると、いきなり先輩に手をとられた。そのまま、クリームのついた私の指を、先輩がぱくりと口に含んだ。

「……!?」

先輩の舌が、私の人差し指と中指の先端を、べろりと舐めた。くすぐったさに身をよじって逃げようとするけれど、手首をがっしりつかまれていて離れることができない。先輩は見せつけるみたいにゆっくりと、赤い舌で、丁寧にクリームを舐めとっていく。指の股まで、ざらりと舌が到達したとき、ぞくりと背筋が震えた。……変な声が出てしまいそうになるのを、私は必死に堪えていた。

「甘すぎるね……」
「せ、先輩……何して……」
「やっぱりオレは、自分で食べるより、お前が食べてるところを見てる方が好きみたい」

にこりと綺麗に笑うカカシ先輩に、なにも言えなくなる。やっと手首を解放してくれたので、先輩の頬を叩いたけれど、力の入らない手では情けない音がするだけだった。


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