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 雨

○カカシ/激しい雨


「私そろそろ……」
「この雨のなか帰るの?」
「うん。もう遅いし……」
「泊まっていきなよ」
「え……」

こっちを見もせずに、カカシは本に目を落としている。聞き間違いだろうか。

「……今、なんて?」

僅かな逡巡のあと、緊張しながら、私はやっとそう聞いた。
カカシは文庫本から目を離してこちらを見た。
感情の読めない瞳が、じっと私を見つめる。
怖いくらいに綺麗な、黒と赤の瞳。

「……泊まって行けって言ってんの」


ざあざあと激しい雨の音が、やけに大きく聞こえた。

言葉と視線。
たったそれだけで。

彼は簡単に、私を拘束する。







○イタチ/優しい雨


「私そろそろ……」
「もう帰るのか?」
「うん。もう遅いしね……」
「……送ろう」
「そんな、悪いよ」
「もう少しお前といたい」


イタチに優しく微笑まれて、どきりと胸が高鳴った。
そんな顔するなんて、ずるいよ……。帰りたくなくなる。


けれど、私達はそんなことを口に出せるような関係じゃない。

玄関口で靴をはこうとしゃがんだ。
イタチが後ろに立っている気配がする。


「やっぱり……もう少しここにいないか?」
「え……?」

驚いて振り向いた。
私以上にイタチは、自分で言ったことに驚いているみたいな顔をしていた。


「すまない……つい」
「……寂しいの?」

こんな雨の夜は、少しだけ、人恋しくなる気持ちもわかる。

「そう……だな」

イタチはそう言って、素直に頷いた。
意外な態度に頬が緩んだ。

「まだお前に、帰ってほしくない」

その言葉にどこまでの意味があるのかなんて。深く考えてしまえば、期待して、……きっと傷つくから。

私はばかみたいに明るく笑って、真剣な顔をしているイタチを茶化すことにした。


「……ふふふ、イタチでもそんな我儘言うんだね」
「……すまない」

そう言ったイタチの顔が、存外、傷ついているように見えたので。

「でも私も……もう少しここにいたい、かも」


驚いてつい、本音が漏れた。

言ってしまってからまた、笑おうとして。



それが心からの自分の願いだと気づいてしまって。
今度は上手く、笑えなかった。

もう少し、イタチの側に居たい。



「ああ。……ここにいろ」


イタチの手が伸びてきて、あっという間に私は抱き寄せられていた。
優しい雨の音と二人の鼓動だけが、部屋に響いている。

切なくて、でも、幸せだった。







○テンゾウ/穏やかな雨




「じゃあ、ボクはそろそろ…」
「この雨のなか帰るの?」
「もう遅いですから……」
「泊まっていきなよ」
「え……」

びっくりして、猫みたいに目を丸くするテンゾウが可笑しくて、くすくすと笑ってしまった。

「ボクの事、からかってるんですか」
「……そんな風に言うなんて、酷いなぁ」

これでも勇気を出して言ったのに。
テンゾウの手首をつかんで、じっと見つめたら、ますます困った顔をされた。


「冗談だよ、って言ってほしい?」
「……ボクは」


続く言葉が聞きたくなくて、
テンゾウの手を解放すると、逃げるように台所へ向かった。

二杯目のコーヒーを淹れよう。


「冗談でこんなこと……言ってほしくないですよ」

慌てて追いかけてくるテンゾウは、必死な声をしていた。
だからまた、くすくす笑いが止まらなくなる。


いつだってテンゾウの言葉は、温かく胸に響くんだ。


「テンゾウはやっぱりすごいよ」
「何ですか急に。……本当に泊まっていいんですか?」


いちいち聞くところが、いかにもテンゾウらしい。
黙っていると、突然後ろから抱き締められた。


「あなたが好きです」
「……」
「……帰らなくても、いいんですよね」


まったく、これだからテンゾウは。
本当に石橋を叩いて渡るタイプなんだから。

穏やかな雨の音に耳を澄まして、目を閉じた。

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