減量禁止令仕事帰りに時々、シカマルくんと一楽でラーメンを食べることがある。 もっとも食べた後、真っ直ぐ家に帰れるのは私だけで、シカマルくんはその後もまだ仕事が控えているという事が多い。今日も執務室を出るタイミングが一緒になったので、「これから夕飯休憩?」と声を掛けるとシカマルくんはそうだと肯いた。一楽に誘ってみると、「んじゃ、行くか……」といつものちょっと気怠そうな返事をするので、真冬の厳しい寒さの中、二人で暖簾をくぐったのである。
「お待ちどーさん、とんこつ味噌チャーシュー二つね」
テウチさんが置いてくれたどんぶりから白い湯気が立ち上る。 ネギとチャーシューがたっぷりのった一楽の大人気メニューを前にして、食欲がわかない人などいるのだろうか。いや、いないはずだ。
「いただきまーす!」 「……いただきます」
二人並んで手を合わせる。まずはスープを一口。まろやかな味噌の風味が口の中いっぱいに広がり、喉を通過していく。濃厚だけれど不思議としつこくないこの味は、一度食べたら病みつきになること間違い無しで、木ノ葉の里の老若男女の心を掴んで離さないのだ。もちろん、私もがっつり掴まれちゃっている。 続いて大量のネギとチャーシューを頬張る。チャーシューは薄切りで味はしっかりめ。絶妙なバランスだ。具をかきわけて、太めの麺をすする。熱々のスープがよく絡み、背徳的な美味しさだ。
「はぁー……やっぱ最高だよね」 「寒い日はこれだよな」
シカマルくんも隣で麺を啜っている。ふと、彼の耳を飾るシンプルなピアスが目に入った。 「そのピアス、綺麗な色だよね」 やや緑がかった銀色のそれは彼にとてもよく似合っていた。 「貰いもんだ。……アスマが、オレといのとチョウジの中忍昇格を祝って用意してくれた」 シカマルくんはそう言って、懐かしそうな目をした。アスマさんは彼の担当上忍だった方で、三代目火影ヒルゼン様の息子でもあった。任務受付所でお話しする程度だったけれど、私もアスマさんとは関わりがあった。彼が任務で殉職されたのは、もう随分前の事だ。思い出して、しんみりとした気持ちになる。
大柄で、髭を蓄えていて、いつも煙草を吸っていて……シカマルくん達と話している姿は、ちょっと大黒柱みたいな風格がある方だった。アスマさんが率いる第十班は、受付所で見ているだけでもチームワークの良さが伝わってくるような班だった。
「カカシさんもアスマさんと仲が良かったよね」
良く談笑している姿を見かけた気がする。カカシさんが上忍師をされていた頃の姿を思い出して、あれから何年も経っているんだなって、何だか不思議な気持ちになった。
「……アスマの仇討ちにも同行してくれたしな。それもあって、カカシ先生には頭が上がらねーんだ」
シカマルくんは小さく溜息をつきながら笑った。カカシさんにあらゆる仕事を振られて、シカマルくんはいつも忙しそうにしている。全幅の信頼をカカシさんに寄せられているのだと思う。
「カカシさん、いつもはっきりとは言わないけど……シカマルくんの事、すごく頼りにしてるよね」 「や、頼りにしてるっつーか……。人を使うのが上手ってだけだろ」
シカマルくんはそう言いながらも、頬を掻く横顔は少し、照れているように見えた。
「私もカカシさんに頼られてみたいな」 「ハルはそうやって、隣で食ってりゃーいいんじゃねえ?」 「……は?」
箸を持ったまま固まる私を見てシカマルくんは吹き出した。
「カカシ先生は、アンタが隣で何か食べてんのを見てっと機嫌良いからよ……。ったく、わかりやすいよな」 「それはどういう……」 「まあ、わからないでもねーけどな。オレも一緒に飯を食うなら、小食の女よりかは……」
「おっ、シカマル!ハルちゃんも!」
聞き慣れた声に振り向くと、鮮やかな金色頭の青年が暖簾をくぐって入ってきたところだった。
「おう。任務帰りか?」 「ナルト、おかえり!」 「へへ……ハルちゃんにそれ言われるの、なんか久しぶりだな。ただいまってばよ!」
うずまきナルト――木ノ葉の里を救った英雄である彼の事は、昔からよく知っていた。私が受付所にいた頃、任務から帰ってきた第七班におかえりなさいと声をかけると、ナルトはいつも、誰よりも大きな声で、ただいまを言ってくれた。どんなに傷だらけでボロボロの時でも、はじけるような笑顔で元気いっぱいに。
「隣座っていい?」 「もちろん!」
私の横の席が空いていたので、ナルトはそこに座った。 「味噌チャーシュー大盛りで!」 注文を済ませると、こちらに向き直る。
「一楽に来ると帰ってきたって感じがするってばよ」 「そっか。ちょっと長めの任務に出てたんだよね」 肯くナルトは「あー、腹減った……」と溜息交じりに漏らしている。 「……三週間は出てたか?」 「いや、一ヶ月かかったってばよ。さっきカカシ先生に報告してきたとこ」
そう言って、ぐーっと伸びをする姿は大人びて見えた。ナルトに会う度に、私は彼の成長ぶりにびっくりしてしまう。ナルトのこともシカマルくんのことも、彼等が下忍になった頃から知っているけれど、シカマルくんの方は昔から落ち着いた雰囲気だったから大きな変化を感じないのかもしれない。
「にしてもハルちゃんさ、ちょっと太った?」 「……え!?」 「一ヶ月前に会った時より、顔が若干まるっとしたような気がするってばよ」
ショックを受けていると、ナルトはからから笑って、「でも、デブって訳じゃねーから大丈夫!」と慰めにもならないことを言う。
「体重はそんなに増えてないつもりだったけど……いや……おっしゃる通り増えはしたんだよね」 「ハハ……そんな落ち込むなってばよ」 「お前、よくそんなハッキリと言えるな……」 「シカマルくんも太ったって思ってたんだ……!」
マジで痩せなきゃ……呑気にラーメンを食べてる場合じゃない。青ざめていると、シカマルくんが苦笑しながら、「まあ、男は女が思ってる程、痩せてる女が好きな訳じゃねーからよ。ハルくらいで丁度良いんじゃねー?」と言った。 「そーそー、ちょっとむちっとしてるくらいが良いってエロ仙人も良く言ってたしなー」 エロ仙人って誰……。ナルトは、目の前にラーメンどんぶりが置かれた途端、脇目も振らず食べ始めた。食べても食べても太らないのが羨ましい。忍はそれだけ動いてるって事なんだろうけど。
「しばらくラーメンは封印する。……はじめます、ダイエット!」 「……上手くいくといいな」
シカマルくんが半笑いで言う。絶対に失敗すると思ってそうな顔だ。
「見ててよ。5キロは痩せてみせるんだから!」 「そんなに痩せたら、カカシ先生怒るんじゃねー?」 「え?何で?」 「何でだってばよ?」 「ナルトはともかく……ハルってホント、鈍いよな」
シカマルくんが溜息をつく。
「どういうこと!?教えてよ!」 「どういうことだってばよ!」 「お前らって何か似てる……」
とりあえず、ダイエットをすると決意したものの、既に頼んでしまったものを残すのはもったいない。 最後だからとラーメンをしっかり完食した私を見て、シカマルくんはまたくくくと笑った。 明日から本気出すんだから……!
二杯目のラーメンを食べ始めたナルトを残して、一楽を出た。すっかり満腹だ。
「じゃあシカマルくん、あまり無理しないで頑張ってね」 「おう。……ナルトに言われた事あんまり気にすんなよ」 「えっ……ありがとう。でも、最近ちょっと太ったのは事実だし、ナルトに言われちゃうのももっともなんだよね。元に戻さないと……!」
シカマルくんの優しさにじーんとしていると、彼は頬をかきながら、 「つーか、ナルトは呼び捨てなんだ?」と言った。
「え?」 「いや……なんでもねー。じゃー、また明日な」 「うん。おつかれさま!」
ゆっくりと遠ざかるシカマルくんの背中を見ながら、そのすらりとした体躯にちょっと見惚れて。 私はまた、絶対痩せるという決意を固めたのだった。
「あれ、今日は弁当一個しか買ってこなかったの?」
昼休憩で手を止めているカカシさんに、お弁当屋さんで買ってきた幕の内弁当を手渡した。いつも私はカカシさんに頼まれてお弁当を買ってくるとき、自分の分も一緒に買うので不思議に思っているみたいだ。
「今日は自分で弁当作ってきたので」
本当は、自分で作ったのは卵焼きくらいなもので、朝、昨晩のおかずの残りを詰めてきたのである。つまりほとんど母のお手製だ。ゆくゆくは自分で作ろうと思っているのだけれど。
「お弁当箱ちっちゃくない?」 「……こんなもんですよ」
カカシさんが訝しげな目を向けてくる。ダイエットの為に自宅から弁当を持ってくることにしたのだという事は、隠したかった。カカシさんに知られるのは恥ずかしい。 カカシさんも私の事、『最近太ったなあ』とか思ってたんだろうな。この前、お腹摘ままれたもんな……。 そうだよ、『最近ちょっとおやつ食べ過ぎ』って言われたんだった……!おやつを与えてくる元凶はカカシさんなのに……!(受けとる私が悪いんだけど)
これはむしろ、ダイエットしますと宣言した方が良いんだろうか。いつものようにカカシさんの横に並んで座り、弁当箱を開ける。横からじーっと視線が注がれている。
「美味しそうだね」 「……あの、白状しますと、ほとんど母がつくった夕飯の残りです」 「卵焼きはハルが巻いたの?」 「……」
ちょっとだけ不格好だからバレたんだろうな、と思って黙っていると、カカシさんはくすくす笑った。
「遅いですけど、これから料理を勉強しようとは思ってるんですよ。私もいい年ですし」
実家に住み続けていると、つい甘えてしまうけど……いい加減に親に甘えていられる年齢でもなくなってきた。
「そうなんだ。……じゃあ、ここで昼飯つくって練習したら?」 「え?」 「隣の仮眠室に、一応台所があるんだよね」
カカシさんがたまに……というか、ほぼ連日のように泊まっている隣の部屋には入ったことが無かった。生活に必要な物はある程度そろっているんだろうなぁ。 「使っていいんですか?……というか勤務中に料理とかしてていいんですかね」 そう言いながら、正直今の私の仕事量だったら昼間に料理をつくってても問題ないような気もしてきた。 「……オレの為にもつくってくれない?仕事の一環として」 カカシさんは後ろ頭を掻きながらそう言った。何となく遠慮がちな様子で。
「えっ……私まだ、ヘタクソですよ?家でも本当にたまにしか料理してこなかったし。本見ながら作れば大きく外す事はないですけど、時間かかっちゃうし……」 「練習するにしても、味見する相手がいた方が、ハルも張り合いがあるんじゃない?」 「それはもちろん、そうですけれど……」 「さすがに弁当屋の弁当にも飽きてきてね。座りっぱなしの仕事だから、体調管理が大変なんだよ」
忙しい時は夜ご飯用のお弁当の買い出しも頼まれる事があった。確かに栄養は偏りそうだ。
「ま、もちろん無理にとは言わないよ。でももし作ってくれるなら、材料費は当然出すし、食材を買いに行ったり料理してもらう時間は勤務時間に含めるから、昼の休憩は今まで通り、一時間きっかりとってくれて構わない」
カカシさんはそう言った後、我ながら良い考えだとでも言わんばかりに肯いた。それから「どう?悪くない条件だと思うけど」と私を窺うように見た。
そんな良い条件にしてもらえるほど、私はまだ料理ができないのに、本当にいいんだろうか。 けれど、カカシさんの昼食を任せられるという事は、火影室での仕事が増えるという事でもある。 常に仕事を欲している私としてはこんな良い話、飛びつかないわけにはいかない。
「さっそく料理本買い込んで、特訓します」 「……楽しみだな」
今日が金曜日で良かった。この土日で少しでも特訓しなければ……!
夕方頃になるとお腹が空いてきてしまった。やっぱりお弁当の量、少なすぎたかなぁ。 いや、人は空腹時にこそ痩せるんだ。なんかそんな事が本に書いてあったような気がする。
執務室の清掃が終わり、カカシさんにお茶を出そうと思って、先日客人に頂戴したお饅頭の事を思い出した。カカシさんはいつも通り、一つは召し上がるはずだ。お茶と一緒に出そう。
「ハルは食べないの?」
カカシさんの前にお茶とお饅頭を置いて、自分も席についてお茶を飲んでいると、カカシさんはしっかり私がお饅頭を食べないことに気づいて尋ねてきた。
「今日は、いいかな……と思いまして」
笑って誤魔化すと、カカシさんが訝しげな目を向けてくる。
「お腹でも痛いの?」 「いえ、そういう訳では……」 「お昼もあんまり食べてなかったよね。具合悪い?」
カカシさんが歩いて近づいてきたので、私はあわてて「いえ、ばっちり健康です!」と言い立ち上がった。カカシさんは私の言葉を無視して、私の額に手をあてる。
「熱があるとかでは無いみたいだけど……」 「だから元気ですって!」
その時きゅーっと小さくお腹が鳴った。 嘘でしょ……! 恥ずかしさに顔が熱くなる。カカシさんは目を丸くして、それからくすくす笑った。
「何だ、お腹空いてるんじゃない」 「……いや、これはその」 「お饅頭食べなよ。甘いの大好きでしょうよ。なに我慢してるの」 「だって……」
身を引く私に、カカシさんが詰め寄ってくる。顔が近い!どきどきしてしまうので、その綺麗なお顔をあまり近づけないでいただきたい。
「ダイエットしてるんです……」
結局観念して、私は小さな声でそう言った。カカシさんはまたびっくりした顔をして、それから眉をつり上げる。
「何で?」
その声色は低く、不機嫌そうで、……なぜ急にカカシさんが怒るのか意味がわからず、ぽかんとしてしまう。
「何でって……太ったからです」 「太ってないよ」 「嘘。この前カカシさんだって言ったじゃないですか!」 「オレなんか言ったっけ?」 「とぼけないでください!お腹つまんでふよふよだとか言ったでしょう!」 「そんな事言ったかなあ」
あくまでとぼけているカカシさんを睨みつけると、カカシさんは耐えきれないといった様子で破顔した。そんなかわいい笑顔はずるいと思う。けど、私は騙されないぞ。
「ナルトにも言われたんです」 「ナルトに?昨日帰ってきたばっかりなのに、もうあいつに会ったの?」 「一楽で会ったんですよ。昨日シカマルくんと帰りに行って……」 「シカマルと一楽行き過ぎじゃ無い?今月何度目よ」 「え?……三回目ですかね?」
答えながら、そんな頻度で一楽にいってればそりゃあ太るよね、と反省した。
「行き過ぎだよ」 「あ、ハイ……。でも、今日からダイエットするので!しばらく行きません!」 「オレが言いたいのはそういう事じゃ無くて……」
はぁー、とカカシさんが項垂れる。そして急に私の身体を抱き締めた。
「は!?……な、な、なにしてるんですか」 「あー柔らかくて良い感じ。せっかくこんなに育てたのに痩せるなんて絶対許さないから」 「育てたって、何言って……」 「ハル、女の子はね、このくらい柔らかいくらいの方が良いんだよ」
ぎゅーっと私を抱き締めたまま、カカシさんが言う。突拍子も無い行動に私はただただ驚いて、その腕の中で固まっていた。
「シカマルくんが昨日同じような事を……」 「……は?シカマルにこうされたの?」 「いや、こうはされてません!……男は女が思ってる程、痩せてる女が好きな訳じゃないとかなんとか、言ってたってだけです」 「そ。……ま、そーいうことだね」
一向に私を離す気が無いカカシさんに抱き締められたまま、緊張でがちがちになって抵抗する力もわかなかった。心臓がばくばく鳴っている。
「カカシさん……そろそろ離して……」 「ダイエットなんて許さないから」 「い、意味がわかりません」 「オレの言うことが聞けないの?」
だって、そんな業務命令聞いたことも無い。 けれど、私が肯くまでカカシさんは腕の力を緩める気が無いらしい。
「わかりました、や、やめます。ダイエットやめますから!」 「本当に?」 「はい。でも、これ以上太らないようにはしたいんで……おやつはちょっと減らそうと思ってます」 「それじゃ、ハルが美味しそうにお菓子を食べてる姿を、オレはもう見られないって事?」
カカシさんが悲しそうな声で言う。一体どんな顔してそう言ってるんだろう。確かめたいけど抱き締められてしまっていて顔を見ることが叶わない。冗談にしても意味がわからない。意味不明なことをいってこの状態を長引かせようとでもしているんだろうか。
「あの、もしかして……」 「ん?」 「カカシさんただ、私を抱き締めたいだけですか?」 「……つまり?」 「人肌の温もりに飢えてるんですか?」 「ぶっ……」
私を抱き込んだまま、カカシさんの身体が揺れる。腕の力が弛んだ拍子に抜け出すと、カカシさんはおかしそうに笑っていた。
「何笑ってるんですか!」 「だって……飢えてるって……ヒドくない?」
そりゃ、カカシさんみたいなイケメン火影が飢えてるわけないかもしれないけど。 目尻に涙を浮かべて笑っているカカシさんに、「マジで、セクハラです!」と言うと、カカシさんはますます笑った。だから、笑う所じゃないんだって!
「はぁ……なんか疲れた」 「オレは癒やされたよ」 「カカシさんの事がよくわかりません」 「じゃあ、正直に言うけどね」
カカシさんは急に真面目な顔になった。どきりとして、私は唾を飲み込んだ。
「……オレはね、ハルの事が」 「カッカシせんせー!サクラちゃんに頼んでたっていう巻物、預かってきたってばよ!」
突然ドアが開いて、ナルトが部屋に入ってきた。
「ナルトお前、ノックしろっていつも言ってるだろ……」 「あ、わりーわりー、またやっちまったってばよ」
やれやれと頭を掻きながら、カカシさんはナルトの方へ歩いていった。
「あ、ハルちゃん。昨日はごめんな」 ナルトが私に向かって、ちょっと申し訳なさそうにそう言った。 「ごめんって?」 「太ったって言ったけど、あれは気のせいだったってば」 「……そんな気を遣わなくてもいいよ」 「よく考えたら、前からそんな感じだったかもなって思って」 「……ナルト、ちょっとこっち来て」
私がにっこり微笑むと、ナルトは何の疑いもなくこちらへ近づいてきた。 そのほっぺたを両手でパーンと挟む。
「いてぇ!!」 「ナルト、ちょっと歯に衣着せることを覚えようね」 「それサクラちゃんにも言われた……」 「あんたまさか、サクラちゃんにも何か言ったの?」 「いやー、ちょっと見ないうちにサクラちゃんも……いや、何でも無いってば」
ナルトは何故かお腹をさすりながら苦笑いをした。 サクラちゃんにも何か失礼な事を言って、鉄拳制裁を受けたんだろうか。
「まったく、成人したって言っても、ナルトはまだまだお子ちゃまだねー」 カカシさんが呆れたように笑う。 「お前にはまだ、オンナノコの魅力がわかんないようだね」 さっきまで抱き締められていた事を思い出して、私はまた恥ずかしくなった。
「よくわかんねーけど、カカシ先生もセクハラはほどほどにしろよな」 「……え?」 「シカマルが愚痴ってたってばよ。……じゃ、オレはそろそろ失礼しまーす」
悪戯っぽく笑って、ナルトは部屋を出て行った。後にはカカシさんと私だけが残された。
「カカシさん、さっきは何を言いかけて……」 「そういえばさ。この前出来た店の視察、まだ行ってないんだよね」 「この前出来た店、ですか?」 「そ。ぱんけーき屋さんだっけ?営業開始の挨拶にきてくれたとこにはね、なるべく顔を出すようにしてるんだけど」 「ああ、オシャレなパンケーキ!」 「息抜きにこれから行こうか」 「良いですね。……は!でも、ダイエット……」 「辞めるんじゃ無かったの?」 「……」 「行きたいなあ、ハルとパンケーキ」
カカシさん、甘い物が嫌いなんじゃなかったでしたっけ。 けれど、にこにこ笑う上司に逆らうことなど、部下にはとてもできないのだった。
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