知っている色
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ジリジリとうるさい蝉の声で目が覚めた。

「んん……眩しい」

目を擦りながら体を起こす。ぎし、とベッドが軋んだ。

「あれ、ここドコ……?」

きょろきょろと辺りを見回す。見慣れない部屋。あたしの部屋では無い。

「……?あ、そーだ。昨日ミナトさんちに泊まったんだっけ」

ぽん!と手をうって、改めて部屋をみた。……で、またもや言葉を無くす。


ミナトさんの部屋でもない。
本当に知らない部屋だ。ここは何処?

夢でも見てるのかと、もう一度目をこすろうとしたら、急にあたしの隣でもぞもぞと何かが動いた。

「……!?」

何で気づかなかったんだろう。隣には誰かが眠っていた。クシナさん?と思ってから、すぐに打ち消す。明らかにクシナさんのものではない、銀色の髪が布団からのぞいていたからだ。

「ん……晴、おはよ」

眠そうな声で、その何者かはあたしの名前をよんだ。低く掠れた声。布団から顔を出したその人は、どう見ても大人の男の人で。眠そうな目をとろんとさせて、あたしを見てから、ふわ、と柔らかく笑った。

だ、誰!?

慌てて布団から飛び出したあたしは、瞬間的に部屋の隅へと避難する。ベッドの上のその人は、気怠そうに体を起こして、「なに?どーしたの?」と、やっぱり低くて、でもどこか優しい声で言って、あたしを見た。

一体全体、何がどうなってこんなことに?何でこの人、あたしの隣で寝てたの?ていうか、ここは何処なの?そして、何でこの人上半身裸なの!?
疑問符が忙しく脳内をかけめぐり、あたしは口を開く余裕さえ無かった。とりあえず目を見開いたまま、この見知らぬ男の人を観察する。

その人は綺麗な銀色の髪を持っていた。それと、少し不健康にさえ見える白い肌。あたしを見ながらあくびをかみ殺しているその顔は、良く見るとかなり整っている。右目は黒いのに、左目は燃えるような赤で、不思議な文様が浮かんでいた。写輪眼、という単語が頭の中に浮かぶ。そして、その左目を裂くような大きなキズが、頬のあたりまで伸びていた。

「何まじまじと人の顔見てるのよ?」

その、少しゆるい話し方。

「晴?」

あたしの名前を呼ぶときのゆっくりした瞬き。

あたしはこの人を知っている、そう思った。

「……カカシ?」

思わずつぶやいた名前に、目の前の大人は、

「ん、なあに?」

と、至極自然に、優しく微笑んだのだった。



どういう事?

あたしの知ってるカカシは、こんな大人の男の人じゃないし、こんな風に柔らかく微笑んだりしないはずなのに。
大体、なんで一緒の部屋で寝てたんだろう。

だけど見れば見るほど、この男の人はカカシにそっくりだ。左目の写輪眼も、銀髪も、眠そうな目も。カカシにお兄さんがいたら絶対こんな感じだと思う。

「カカシ……なの?……でも……」
「晴、なに寝ぼけてんのよ?」

そういいながら、彼は布団からもぞりと這い出した。え、ちょっと、裸だよね!?一瞬どぎまぎしてしまったが、布団からでた彼は一応パンツを履いていた。ほっと胸をなで下ろしたけれど、パンツ一丁で隣に寝ていた事だって大問題だ、と思い直す。

そんな事を考えているうちに、目の前にやってきた彼は、あたしの頭を急にくしゃくしゃとなでまわした。


「わッ……」
「どーしたの、変な夢でも見た?」
「や、変な夢は……見てない、ですが」
「何で敬語?もしかして、昨日激しくシすぎちゃった?」

しすぎたって何を……。びくびくしているあたしを見て、彼は不思議そうに首をかしげる。その右手が急に、あたしの耳の穴をくすぐった。

「ひゃあっ!」
「かわいー。昨日の続きしよっか?」
「か、かわいい!?……昨日の続きって……?」
「もちろん、決まってるでしょーよ。……そんな無防備な格好してるとホントに朝から襲っちゃうよ?」

ふと自分の体を見ると、なんとキャミソール一枚と、下はパンツしか履いていないというとんでもない格好だった。声にならない叫びを上げて、慌てて身体を隠そうとして……もっと重大で、不可解な事に気がついてしまった。

あたしの身体、成長してる!?


「な、なにこれーー!!?」
「どうしたのよ晴?」
「ちょ、来ないで!!」

彼の横をすりぬけてベッドに戻り、慌ててシーツで身体を隠した。

「来ないでって……いくらなんでも傷つくんだけど」

彼はあたしの制止を無視してベッドに戻ってくると、唐突にあたしを抱きしめた。腕の力が強くて窒息してしまいそうだ。

「ねぇ、怒ってるの?昨日何度もシたから」

腕の強さと裏腹に、どうしようもなく情けない声が頭上からふってきて、何故か胸がきゅんと痛んだ。
だからしたって何をしたのよ、と、聞きたいような、聞きたくないような。
とりあえず、「怒ってるわけじゃないよ」と小さな声で返事をした。


「じゃあ何?熱でもあるの?」


やっと腕の力をゆるめたその人が、心配そうな目であたしを見つめた。目と目が合って、はっと息を呑む。彼は大きな手の平を、そっとあたしの額にあてた。

低くなった声も、大きな手も、あたしの知ってるカカシとは全然違う。

けれど、この目の色も、喋り方も、……あたしを心配するときの、まっすぐな目線も。
やっぱり、あたしの知ってるカカシそのもので。

この人は、確かにカカシなんだ。

何がどうしてこうなったのかはわからないけど、今目の前に居るこの大人は、確かにカカシ本人なのだと、急にすとんと納得してしまった。
カカシが大人なのだから、あたしが大人なのも納得できる。もう一度、自分の身体を見下ろした。伸びた手足と大きくなった胸は、どうみても14歳の身体ではない。

「ねぇカカシ、今何歳?」

思い切って聞けば。

「今?26だけど。……お前ももうすぐ26でしょ」

怪訝そうに返したカカシに、あたしはやっぱり絶句してしまった。


26才!?それって何年後!?

やっぱりこんな状況、飲み込めそうにない。

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