変わらない青 ----------- 太陽を反射した地面が白くひかっている。 空気がゆらゆら見えるほど、気温も上がってきた。坂道を登りきると、空がすごく広く見えた。んーって伸びをして、からりと晴れた水色を見上げる。カカシも立ち止まって、空を見た。 立っているだけで溶けてしまいそうなほど暑いのに、空はどこまでも、爽やかとしか言いようが無い水色で、視界にめいっぱい広がっている。ラムネの瓶をすかしてみたような、透明な青だ。 「良い天気だね……ラムネみたい」 「ラムネ?ああ、そういえば」 「んー?」 「昨日、晴が残してたラムネ、全部飲んじゃったよ」 「残してたラムネって?」 「飲みきれなくて冷蔵庫いれてたでしょ。……あれ、風呂上りに喉が渇いて飲みほしちゃった」 冷蔵庫のラムネ? でもあたし、昨日の夜中に目が覚めたとき、ラムネを飲んだはずなんだけど。 そう言ったらカカシは不思議そうな顔をして、確かに瓶も捨てたはずだ、と言った。 噛みあわない話に、二人して顔を見合わせる。どういうことなんだろう?? 「ま、先生かクシナさんが、もう一本買ってきてたんでしょ」 「あー、そうなのかな。だとしたらあたし、勝手に飲んじゃったよ……」 「まあいいんじゃない?次会った時言えば」 「いいかなぁ」 ゆらゆら揺れる空気の中を、また歩き出す。 手は繋いでいないけど、ほとんど同じ歩幅であるいている。 いつもは先を歩いていってしまうカカシが、あたしに合わせてくれてるのは、やっぱり少し、心配してくれてるのかな。 つかず離れず。この距離が、心地良い。 いつか、あたしたちの距離は変わってしまうんだろうか。 わからないけど今は、この距離がちょうどよくて、何だか、幸せだ。 「思い出したんだけど、あたし、カカシに会いたかったんだよね」 「……何言ってんだか。昨日からずっと会ってるでしょうよ」 「違うの。夢の話なんだけど……」 「夢……?」 「あたし、カカシに会いたくなったから、帰ってこれたんだと思う。やっぱりあたしの時間はここにあるんだって、カカシのおかげでわかったから」 訳がわからないって顔をしているカカシに構わず、あたしはさらに、べらべらと話し続けた。 「あのままあの世界にいたら、何もかもすっとばしちゃって、つまらないもんね」 「……よくわかんないけど、要するに、変な夢でも見たの?」 「変な夢じゃないよ。すっごく素敵な夢だったんだから」 ハイハイって気の無い返事をして、カカシはまた前を歩いていってしまった。 それを慌てて追いかけながら、きっと、こういうのも全部、すっとばしてしまうには、もったいない時間なんだなって、そう思った。 青空に溶けてしまいそうなカカシの背中を見ながら、 いつかまた、『彼』に会える未来を、想像してみて、気づかれないように小さく笑った。 ラムネ色した空を見上げれば、夢の中と少しも変わらない青がそこにある。 吸い込むみたいに、大きく深呼吸をした。 まだまだ、今年の夏も続きそうだ。 少し離れたところでカカシがあたしを待っている。 「またぼーっとしてんの?」って呆れた声を出しながら、立ち止まって、あたしを待ってくれている。 いつも、あたしが見失わないように、そこにいてくれる。 そんなカカシが、あたしは好きだ。 「あーあ、完成間近だったのに」 「大事なものはちゃんとしまっとかないとね」 「ちゃんとしまったはずなんだよ。冷蔵庫の中に」 「まったく、ミナトは変なところが抜けてるってばね……」 「信じてよ……。空き瓶に入れておいたはずなんだ」 「空き瓶?」 「ん、そこにあったラムネの……」 あたしのあずかり知らぬところで、 真相は闇の底に沈んでいった。 |