優しいキス ----------- 「何もしないから一緒に寝てもいい?」 そう言ったカカシに、こくりと頷いた。 泣きすぎたら瞼が重くなって、さっきまでの緊張が嘘のように眠たくなってしまったあたしは、糸の切れた人形みたいにベッドに倒れ込んだ。 少し遠慮がちに、隣に横になったカカシは、あたしと微妙に距離をとっていて。 気遣わしげにあたしを見る表情が、何だか、泣きそうに見えた。 考えてみればカカシとあたしは恋人同士なのに。 訳もわからずあたしに拒まれて、その上涙まで流されて。 今のカカシは一体どんな気持ちだろう。 あたし、すごく酷いことをしてしまったんだ。 「カカシ、ごめんね……」 「オレの方こそごめん……無理やり、その……」 言い淀むカカシは、あたしから目をそらして、しょんぼり、しかられた子供みたいな表情をした。 たまらなくなって、くしゃりと潰れた、柔らかそうな銀髪に手をのばす。 「……っ」 「……綺麗な髪だね」 「……」 カカシが何も言わないから、柔らかい髪を思う存分手で梳いた。 カカシは静かな目であたしを見ていた。 ……カカシ、悲しい気持ちにさせちゃってごめん。 そう言いたいけれど、言ってしまえば、なんで泣いてしまったのかも話さなくちゃいけなくなる。 あたしの中身は14歳なの。 そう言ったら、カカシはどんな顔をするのかな。 ずっと、この夢から目覚めたくなかった。 だけど、なんとなくわかる。……もうすぐ、この夢は終わってしまうんだって。 きっと、次に目を覚ますのは元の世界の、……あたしが本当にいるべき場所だ。 今、カカシに本当の事を話しても話さなくても、どうせ別れは目前なのだけど。 やっぱり離れがたいな。 今日一日の事を、朝から順に思い出す。 目を覚まして出会った大人のカカシは、すごくすごく優しくて、本当に素敵な男の人だった。 カカシが笑うと、あたしは何だかすごく、幸せな気持ちになれたんだ。 「カカシ、今日はありがとう……」 「ん?」 「一緒にデートできて、本当に楽しかったよ」 「……どうして、最後みたいな言い方するの?」 「あ、いや、そんなつもりじゃ……」 本当に、最後なのかもしれないけれど。 ううん、多分、最後になるんだ。 「ねぇ、晴、お願いしてもいい?」 「なに……?」 「何にもしないから、抱きしめて眠ってもいい?」 カカシの子犬みたいな目に、あたしは弱い。 「うん……」と言えば、 カカシの腕が、そっとまわってきて、本当に優しく、優しく、抱き寄せられた。 何にも言わなくて、ずるくて、ごめん。 カカシと一緒にいられて本当に楽しかった。 ぎゅうって、カカシの胸に顔を寄せてたら、急に切なくなって、止まったはずの涙がまた目尻に滲んだ。 「晴……」 聞きなれない低い声に名前を呼ばれるのも、これで最後なのかな? 顔をあげれば、カカシが切なそうな顔であたしを見ていた。 目と目が合った数秒後、そっと口づけられた。 生まれて初めてのキスなのに、 どうしてだろう。すごく、落ち着いた気持ちになる。 急激に眠たくなって。 カカシと手を繋いだまま、深い深い夜の底に落ちていく。 ジリジリとうるさい蝉の声で目が覚めた。 「んん……眩しい」 目を擦りながら体を起こす。ぎし、とベッドが軋んだ。 「晴ちゃんおはよう。眠れた?」 暖かい味噌汁の匂いをさせて、エプロン姿で部屋に入ってきたのはクシナさんだった。 「朝ごはんもうすぐできるからね、起こしに来たのよ」 そういって笑うクシナさんは、ぼんやりとしているあたしが、ただ寝ぼけてるだけだと勘違いしたようで。「じゃ、顔洗ったらおいでね」といって、部屋を出て行った。 |