ラムネの空 ----------- 結局、メリーゴーランドもコーヒーカップも、眺めているだけで満足してしまった。ものすごい人の行列に圧倒されてしまったというのも、乗らなかった理由のひとつだけど。でも、ほんとに、夏の空の下にひろがるイルミネーションはすっごく綺麗で、見てるだけで退屈しなかった。空は少しずつ、オレンジ色に変わっていくけれど、それでもまだ上の方は水色に透き通っている。色が混じって、何だか不思議だ。色とりどりの乗り物も、陽気な音楽も、何だか絵本の中の世界みたい。 「メルヘンだねー」 「晴は好きでしょ、こういうの」 「うん、大好き」 「良かったね」 カカシは目を細めて、幸せそうに笑った。あたしも幸せだ。 「せっかくだから、何か乗り物に乗ろうよ」と言っていたら、すっごく大きな乗り物がみえてきた。 「うわあ……高い……」 「観覧車だね。あれに乗る?」 「乗る!!」 ピンク、むらさき、水色……砂糖菓子みたいな色のゴンドラが、ゆっくりと回っている。やっぱり行列ができていたけど、他の乗り物にくらべたら少なかった。並んでからそんなに待たずに、順番がくる。 「お二人様ですか?」 「はい」 「一周約15分となっております。それでは、空の旅をお楽しみください!」 ゴンドラがゆっくりと地上から遠ざかって行く。窓の外をみてあたしは歓声をあげた。見て、人があんなにちっちゃいよ。あれ、さっきの乗り物だよね?ほら、メリーゴーランド!!ねえカカシ見て見て!! ばっとカカシを振り向いて……どうしてあたしは、一瞬、びっくりしてしまったんだろう。 カカシは優しく笑って、あたしの事をみていた。 だけど、 (……カカシに会いたい) どうしてあたしは、そんな事を思ってしまったんだろう。 「晴……」 「あ、……ねぇカカシ、見て、空がすごいきれいだよ」 またあたし、不自然に黙ってしまった。 カカシはまた、悲しい顔をした。 いたたまれなくて窓の外をみて、「空がきれい」なんてわざとらしくはしゃぐあたしを、カカシは急に抱き締めた。 「晴……」 「か、カカシ……」 後ろから抱きしめられている。カカシの低い声が、耳の横で聞こえる。あたしは窓に手をかけたまま、ドキドキしすぎて、心臓が口から出るんじゃないかと思った。 そのまま、カカシは何も言わないで、あたしを抱きしめていた。 あたしも、何も言わないで、抱きしめられたままで居た。 ゴンドラの窓から見える空は、本当にきれいだった。 空の低い位置は、じんわりとオレンジ色が広がっていて、 中間は、ピンクがかった淡い紫、 上の方にわずかに残った、透き通る水色のなかで、 まだまだ白く弱い光は、あれはきっと、一番星だ。 「カカシ……」 「うん……」 「空……」 「……きれいだね」 カカシの腕の力が、強くなった。 きれいな空、まるでラムネみたいな、みずいろ。 カカシに抱きしめられながら、あたしは、 この空をアイツに見せてあげたい、なんて、考えてしまったんだ。 ……帰らなきゃ。 カカシに会いたい。 大人のカカシがすぐ傍にいるのに、あたしの頭の中は、いつもあたしを馬鹿にするあの生意気な少年のことで、いっぱいだった。だから大人のカカシの、泣きそうな声には、ちっとも気づかなかったんだ。 |