幸福な未来 ----------- 涙が止まって、落ち着いてから、映画館通りを抜けた。また手を繋ぐのかなって、少しドキドキしていたんだけど、今度は普通に隣を歩いただけだった。本当は、わずかに期待していた。ドキドキするし、汗だってかいちゃうけど、カカシと手を繋いでるとなんだか幸せな気持ちになるから。それが何でなのかはわからない。カカシがかっこいいからかな。 映画通りを抜けたところに、大きな広場がある。その広場も、あたしの知っている場所だったのだけど、今日はいつもと様子が違っていた。 「わ、あれ、何かな?」 「何だろうね、行ってみる?」 人だかりと、遠くからでも聞こえる、にぎやかな音楽。まだ夕方なのに、色とりどりの電飾がキラキラ光っている。 「すごいすごい!!あれってメリーゴーランド!?」 「綺麗だね。そういえばサクラが騒いでたっけな。移動遊園地が来てるって」 広場に突然出現した遊園地は、異様な人だかりで大盛況だった。木ノ葉の里には遊園地なんてものは無い。まあ、遊園地がある忍び里なんて聞いたことが無いから、それは当たり前だと思う。遊園地……遠くの国にはあるって、噂には聞いていたけど、実際に見るのは初めてだった。 「遊園地って……移動するの?」 「お前、3年前も同じこと言ってたよ?」 カカシはくすくす笑った。やばい、またやっちゃった。この世界のあたしは3年前にも遊園地にきたことがあるらしい。……にしても、さっきの映画といい、今度の遊園地といい、あたしの想像力ってどれだけすごいんだろう。夢の中で発揮される潜在能力ってやつ? こんな事が思いつくなんて、あたし、映画監督にでもなれるんじゃないかな。だけどどうせ、目が覚めたら全部忘れてるとか、そんなオチだとおもう。……目が覚めることを考えたら、すごく怖くなった。 「晴?……またぼーっとしてる」 「あ、ごめん!!」 「いいよ。……ねぇ、中入ろうよ?」 カカシはまた、あたしの手を繋いだ。その力がさっきより強くて、引っ張られたあたしはちょっとよろけてしまった。カカシはそのまま、ぐいぐいとあたしを連れて行く。手を繋げたのは嬉しいのに、ちょっと怖い。もしかして、ぼーっとしてばかりいるから、怒っているのかな。 遊園地は入場無料みたいだった。人だかりができる訳だ。甘い匂いがして、なんだろうと思って見たら、棒状のドーナツみたいなお菓子がうっていた。 「ん?あれが気になるの?」 聞いてきたカカシは、さっきまでの優しい表情に戻っていた。良かった、怒ってた訳じゃなかったんだ。 カカシと二人で、チュロス、という、熱々のお菓子を買って食べた。 かじったところが星型で、すごく可愛い。 「……すっごい甘いね」 「そう?すっごい美味しいじゃん」 「なら良かったけどさ」 カカシはさっさとチュロスを食べ終わってしまったようで、あつあつのチュロスを味わうように食べているあたしを、まじまじ見ている。なんでそんなに見るの、って思って恥ずかしくなって、あたしはまた下を向いた。 「あー!!カカシ先生じゃん!!」 元気な男の子の声がした。顔を向けると、金髪の男の子がこっちに走ってくる。その後ろから、黒髪を高いところで縛った男の子と、ちょっとぽっちゃりした男の子もついてきた。 「何だ、お前らも来てたのか」 「何だって、何だってばよ!!」 「つーかカカシ先生、さすがっスね。もう顔隠してやがる」 「あ、晴サン!何食べてるの?」 わいわい言ってる男の子達が何だか可愛くて、あたしは皆にチュロスを買ってあげることにした。「晴が出すならオレが出すよ」と、相変わらずの優しさでカカシが申し出てくれたのだけど、「いいから、『カカシ先生』は皆としゃべってなよ」って言って、あたしは列に戻った。 カカシは教え子がいっぱいいるんだな、って思いながら、仲良くしゃべっている4人を眺める。あんなに小さいけど、多分、みんな忍者なんだよね。あたしは忍にはならなかったけど、忍の世界がすごく厳しいことは知っている。みんなすごいな……。まあ、小さいっていっても、本当のあたしと大差ない年齢だと思う。でも、無邪気に騒ぐ金髪の子をみてると、やっぱり可愛いなあって思ってしまった。……この夢の中では、どの子供も元気に笑ってる。子供だけじゃない、大人も、みんな何だか楽しそうだ。この夢があたしの願望だったとしても……本当に未来がこうなってくれたらいいなって思った。ううん、きっと、こんな未来がまってるはずだ。 あたしのお父さんも、カカシも、ミナトさんやクシナさんも。今、戦争で疲れきった木の葉の里を元に戻すために、すっごくがんばっている。だからきっと、こんな未来がくるのは、そう遠くない話だ。 「晴ちゃん!チュロスありがとな!」 「……どーも。ごちそうさまです」 「ボク、あとで自分でも買うよ!」 少年たちが騒ぎながら去って行くのを見送っていたら、またカカシに手をつながれた。ドキドキしながらも、嬉しくなって、カカシを見上げる。 「ねぇカカシ、さっきの……えと、ナルトくん、さ」 「ん?ナルトがどーかした?」 「ミナトさんに似てたなって思って」 「……あぁ、そうだね。でもあいつ、顔はクシナさんに似てるよなぁ」 何でもないことのようにそう言ったカカシを、あたしはたっぷり数秒みつめた。 「ん?何?」 「……ううん、なんでもないよ」 何だかすごく、幸せな気持ちになった。 もしかしたら、この世界は、夢じゃないのかもしれない。 夢じゃないといいなって。そう思ったんだ。 |