悲しい映画 ----------- 映画館の前につくと、上映中の作品の看板が沢山でていた。 この映画館って、最近建て直されたばかりだったはず。上映している映画もまだまだ少ないはずだった。だけど、建物は真新しい感じではなかったし、映画も何本もやっているみたいだった。 「何か観たいのあった?」 カカシに手をひかれて、はっとして見上げた。そうそう、ここは、26歳のカカシがいる世界、なんだよね。 「あー、あれとかどうかな?」 適当に指さしながら、あたしは看板まで走った。繋いでいた手が自然に離れる。正直、ほっとした。ドキドキしすぎて、手汗が限界という、なんとも悲しい理由からである。 振り返るとカカシは、自分の手を見てぼーっとしていた。も、もしかして、変に思ったかな?内心冷や汗をかいたけど、カカシはすぐに、「ん?どれ?」って、微笑みながらこっちにきたから、あたしはまたまた、ホッと胸を撫で下ろしたのだった。 「んー、晴?ほんとにコレでいいの?」 え?と思って見上げると、それは、『大好評上映中!釣りばっか日記21』だった。 「晴、釣りとか好きだったっけ?」 「いや……ていうか、21……?」 この間『釣りばっか日記9』が宣伝されていたような気が。いや、釣りばっかシリーズを観たことなんて無いんだけどさ。 「それより、こっちのがいいんじゃない?」 カカシが指差したのは、聞いたこと無いタイトルの映画だった。たぶん、恋愛映画だと思う。 「あ、うんうん、それにしよう」 「前に観たいって言ってたもんね」 「あ、そうだっけ、あはは」 二人分の飲み物と、ポップコーンを買って映画館に入った。ポップコーンはキャラメル味である。甘い匂いが鼻腔をくすぐって、幸せな気持ちになる。「あたしそれ、大好き!」というと、カカシはにこにこしていた。でも、カカシは全然ポップコーンを食べようとしないので、結局あたしが一人でむしゃむしゃ食べていた。そういえば、カカシって甘いものが嫌いじゃなかったっけ。ミナトさんの家で、もらい物のお菓子を出してくれた時も、カカシは手を付けようとしなかった。ってことは、このポップコーンはあたしのためだけに買ってくれたのかな。ドコまでも紳士なカカシに、きゅんとしてしまう。 映画の内容は、とにかく泣けるものだった。想いあっている二人だったのに、彼女の方が他に好きな人ができてしまって、別れをつげるというもの。彼女はなかなか彼氏に別れを切り出せなくて、彼に優しくされる度に、悲しくなってしまうんだけど、彼氏は実はそれに気づいてて、っていう話。切な過ぎる。彼氏の性格がまた、すんごく優しくて、良い男なんだよね。なんでこんなに優しい人をふっちゃうの?って感じだ。映画の後半はもう泣きすぎて、ずびずび言ってた。そしたらカカシが、あたしの右手を優しく握ってくれた。ついびっくりして「ひゃっ」と叫んでしまって、周りの客席の目が痛かった。 感動の余韻にひたりながら、まだぐずぐずする鼻をすすって、映画館をでた。カカシが、「泣きすぎでしょ……」って困ったように笑うから、慌てて手で顔をぬぐった。 「こら、擦ったら赤くなるよ」 そういって押し当てられた柔らかい感触。 「……ずびっ……ありがと……タオル持ってるなんて、どんだけ紳士なの」 「お前はなんだか、子供に返ったみたいだねぇ」 ぎくりとして、肩をゆらした。やばい。そう思って黙って下を向く。 「……何か今日、変だね、晴」 呟くようにカカシが言った。 どうしよう。 あたしは黙るしかできなくて。 「何でだろ、お前の考えてることがわかんないよ。さっきの映画みたいだ」 そういったカカシの声は、何だか悲しそうだった。 さっきの映画みたいって、どういうこと? 慌てて顔をあげたあたしを見て、カカシは困ったように笑った。 どうしよう、何か言わなきゃ。 だけどボロが出たら……本当のことがカカシにばれてしまったら……夢から覚めてしまうかも。 もっとカカシと一緒にいたい。 「……そんなに困った顔しないでよ。悪かった。変なこと言ったね、オレ」 困った顔をしているのは、カカシのほうだ。だけどカカシは、やっぱり優しく笑って、あたしの頭をぽんぽん撫でた。 「……次はドコいこっか?」 話題が変わったことにすごくほっとしてしまったあたしは、このときのカカシの気持ちなんて、全然考えてなかったんだ。 |