不意うつ言葉
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時計の針がてっぺんを回って少したったころ、玄関のドアが開いた。カカシ、帰ってきたんだ!!跳ねるように立ち上がって、ぱたぱた廊下を走って、玄関にむかった。

「おかえり!!」
「ただいま。あ、着替えたんだ」

カカシはあたしを見ると、なんだかすごく嬉しそうな顔をした。あ、良かった、笑顔のカカシに戻ってる。カカシは脚絆を脱ぎながら「そのワンピース気に入ってくれたんだ」といって、また、ご機嫌な笑顔をむけてきた。

「え、あ……うん。似合う?」
「似合うよ。オレが選んだんだから当然だよね」

このワンピース、カカシが買ってくれたんだ……。何か変なことを言ってしまわなくて良かった、と思いながら、あらためてワンピースをみた。歩くたびにふわりと広がるスカート。もしかして、子供っぽくないかなって不安だったけど、「似合う」っていってもらえたのが嬉しくて、自然に笑顔になる。お化粧も、不自然になってないかな?っておもって、ちょっと不安になりながらカカシを見つめたら、カカシは「ん?」といって、やっぱり優しく目を細めた。たぶん、お化粧も成功、かな?

「もうご飯食べた?」
「ううん、何も食べてないよ。あ、あたし、何かつくるよ!」
「ほんと?……じゃあ、オレちょっと、泥を落としてくるね」

今日は野菜の収穫を手伝って来たんだよね、とカカシが言うので、あたしはびっくりした顔をしないように気をつけた。だって、それってDランク任務だよね?忍の世界のことは父たちから聞きかじった程度だけど、まぁ、何となくのランクは知っている。しかも野菜の収穫って……この時代って、もしかしてすごく平和なのかな?……あれから、戦争は起きていないんだろうか。だとしたら、この夢の中の世界はすごく幸せなのかもしれない。

カカシがシャワーを浴びる音を聞きながら、あたしは冷蔵庫の中をみて、何を作ろうか考えた。父さんと二人暮らしのあたしは、料理の腕だけは鍛えられている。こんな風に役に立つときがきて嬉しい。卵と、豚肉と……食材をチェックしていると、見慣れた瓶があるのをみつけた。何故か、ドキリとした。

それは未開封のラムネの瓶だった。そういえば空き瓶が、寝室にもあったっけ。未来のあたしもラムネが好きなのかな。

急に、ラムネをごくごく飲んでいるカカシの横顔を思い出した。それは、14歳のカカシだ。いま、カカシはどうしているんだろう。

そんな事を考えてしまうのは変な話だ。だってこれは夢の中なのだから。カカシは……そうだよ、カカシはシャワーを浴びてるんだった。カカシが出る前に、お昼ご飯をつくらなきゃ。

この世界のことを疑問に思ってばかりいたら、きっと夢からさめてしまう。





「どこ行くか考えた?」
「え、……映画とか、かな?」
「映画?今何かやってるっけ」

いや、わかんないけど、あはは。

あたしは今、カカシと手を繋ぎながら、木の葉の商店街を抜けている。繋いだ手に汗をかいてないか、そんな事ばかりが気になって、隣を歩くカカシの顔を見ることができない。

「晴、なーんか、ギクシャクしてない?」
「へ?や、そんなこと、ないよ?」

慌ててカカシを見て、笑ったんだけど、またすぐ目をそらしてしまった。だってやっぱり、かっこよすぎて、直視できないよ。

カカシは今、ジーンズにシャツという、いっそシンプルすぎる格好をしている。……だから当然、口布なんてしていない。さっきから、すれ違う女の人がみんな、カカシのことをチラチラ見てるのは、多分気のせいなんかじゃない。

「あーッ!カカシ先生!!デートですか!?」
「あ、やばい」

カカシは目にも止まらぬ速さで、一体どこに隠し持っていたのか、オレンジ色の本を取り出して、顔を隠した。あの本ってさっきの……イチャイチャパラダイス、だっけ?後ろから走ってくる音がして、振り向くと、桜色の髪をした、すごく可愛い女の子がたっている。

「晴さんこんにちは!」
「あ、こんにちは……」

挨拶を返しながらも、あたしはこんな可愛い女の子の知り合いはいないので、内心すごく焦っていた。どうやらこの子はあたしの事を知っているらしい。……あ、あの写真の子だ。

「サクラ、サスケと修行じゃなかったのか?」
「それが、サスケくんったらすごい速さで居なくなっちゃって。しょうがなく、ナルトとラーメン食べてあげたんですけど、今、その帰りです!」
「食べてあげた、ねぇ……こりゃナルトが報われるのは時間がかかりそうだなあ」

仲良さそうに会話する二人を見ながら、(あ、やっぱりカカシは先生なんだ)と思った。

「ねぇカカシ、何で顔隠してるの?」
「ん?」
「ほんとですよカカシ先生!!いい加減顔見せてください!」
「……教え子のこーいう反応が、面白いでしょ?」

ぷんぷん怒っているサクラちゃん、と、ニコニコしているカカシを見ていると、なんとなく、カカシは良い先生なんだろうなって気がした。なんか、親しみやすそう。

やっぱり、ツンケンしてるあのカカシとは大違いだ。14歳のカカシのことを思い浮かべて、それからふと気づいた。今日、アイツを思い出すのは何回目だろう。

「カカシ先生また明日ー!晴さんもまたね!」

サクラちゃんが人ごみの向こうに消えたのをカカシと見送って、またカカシに視線をもどすと、もう本で顔を隠すのをやめている。あまりのすばやさにあたしは笑ってしまった。

「お前といる時に、顔を隠したりなんてしないよ」

なんかそれって、不意打ちだ。大人のカカシは、あたしをドキドキさせるのがやけに上手い。

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