味のする夢
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ほかほかのご飯と卵焼き。お漬物と、茄子のお味噌汁まで用意してある。

「今日はオレがご飯作るよ。晴はもうちょっと寝てて」

そう言ってカカシが用意してくれたものだ。
あたしは本当に怒ってないのに、(というか、昨日何が起きたのかなんて知らないし知りたくも無い)カカシはすごく優しくて、何だか戸惑ってしまう。
もしかしたら未来のカカシは、いつでも優しいのかもしれない。照れるでもなく、自然に気をつかってくれるから、カカシに優しくされることになれないあたしは一々ドキドキしてしまう。

カカシと向かい合って座って、温かいごはんを咀嚼しながら、あたしは思った。

ご飯の味もちゃんとわかるし、さっき試したとおり、頬を抓ればちゃんと痛い。

だけどこれは、やっぱり夢だ。すっごくリアルな夢なんだ。

だって、未来に来るなんて、そんなことありえるわけが無い。忍びの世界じゃ嘘みたいな事が日常茶飯事に起こりうるらしいけど、さすがに未来に行ったなんて話は聞いたことがないし、第一あたしは忍ですらない。しかも、あたしとカカシが付き合ってるなんて。一緒に暮らしてるだなんて。一体どんな未来だ。

目の前で茄子のお味噌汁を飲んでいるカカシは、「美味し…」とか言いながら、例の柔らかい笑顔を浮かべている。やっぱり、あたしの知っている無愛想なカカシとは似ても似つかない。

でも……この人はカカシだ。それだけは何故かはっきりとわかる。

考えてもわからないことは、考えたってしょうがないよね。

まあ、何だか楽しそうな夢だし。

このまま、目が覚めるまで楽しんでしまおう。


そう自分の中で結論付けると、あたしは俄然、今の状況が面白くなってきた。

だってあの、いつもあたしを馬鹿にしてるカカシが、この夢の中では信じられないほどあたしに優しくて、甘くて、子犬みたいなのだ。こんな面白い夢、楽しまなきゃ損である。

ふわふわの卵焼きを食べながら、「んー、上出来」って笑うカカシは、見れば見るほど非の打ち所の無い綺麗な男の人だ。カカシのマスクの下ってこうなってたんだ……。ま、これは夢だから、あたしの空想なのかもしれないんだけど。

そう考えると、こんな夢を見てるあたしってどうなんだろう……。







食事を終えると、カカシは緑色のベストをして、額あてを斜めに巻いた。里の忍の標準服だ。そして口布をぐいっと引き上げる。やっぱり大人になっても顔は隠してるんだな。

「さて、そろそろ行ってくるよ。今日はナルトたちと任務だから、多分午後には帰ってこれるかな」

ナルトって誰だろう?と思いながらも、言葉には出さなかった。玄関までカカシを送る。

「晴は今日は仕事無いでしょ?」
「え?うん、たぶん……」
「多分って何よ」

くすくすと笑うカカシは、脚絆を履きながらこっちを振り向いた。

「帰ってきたら久しぶりにデートしよっか」
「デート!?」
「うん。行きたいとこ考えておいてね」


カカシとデート……。
デートって、手をつないだり、映画をみたり、買い物したり……かなぁ。想像して、ドキドキしたりワクワクしたりしていたら、急にカカシの顔が近くなって、あたしは思わず叫んだ。

「ひゃっ!……何!?」
「何って……行ってきます、だよ」

カカシはそういって、目の前で顔を止めた。
あたしの目を見つめたまま、少し考えるように、僅かな間があいた。
一瞬の後、躊躇いがちに顔が近づいてきて、おでこにちゅっと軽い感触。

「キ、キス……」

あたしの心臓はバクバクいっていて、キスされたおでこを手で押さえながら、カカシと目も合わせないで下を向いてしまった。
カカシは何も言わない。じっと見られているような気がして顔をあげれば、そこにあったのは、感情の伴わない静かな目。

「……え、カカシ?」
「……なんでもない。……じゃあ、行ってくるね」
「あ、行ってらっしゃ……」

言い終わらないうちに、カカシは小さな煙を残して、もう見えなくなってしまった。

なんでもない、って、顔じゃなかった。……どうしたのかな?

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