無邪気な中毒者 | ナノ

狂愛の果て、不香の花の散る日にて。


21話if

「A、やっと目を合わせてくれたな。」

カルナが微笑む。
カルナがこの瞳を覗き込む。太陽の光のような、温かな白の中に浮かぶ、冷然たる無機質な青……
俺は目を逸らしていた。
その青が映す世界が、どうしても受け入れられなかったのだ。

「合ってないだろ。」

カルナは首を傾げた。
気づいていないわけが無い。今だってそうだ。

空の瞳は虚空を描いていた。

「俺のものになんて、なってくれないくせに……!」

カルナがピタリと動きを止める。
微笑みが崩れ絶望にかわる。

カルナにとってどうしようもない事実。
身体も、心も、ついに真っ向から否定されてしまったのだ。

「そうだ。もうオレは誰のものにもなれない。
身体も、心も、何もかも分け与えた。」

カルナがふらふらとした足取りで何かの容器を取り出して、中の液体を頭から被った。
その液体は……油だろうか。

「けれどあとひとつ、まだ残されているだろう?
お前は差し出されても迷惑かもしれないが、オレがしたいんだ。オレの最期のわがままを受け取ってはもらえないだろうか。」

Aにライターが手渡された。
カルナが深呼吸をする。

「火をつけてくれ、お前の火を。
燃え尽きる最期の瞬間まで、お前を思い続けると誓おう。」

そういって、カルナは目を閉じた。
Aは最期に、その身体をだきしめる。
その温かさを、カルナは噛み締める。
最期の瞬間まで、忘れないように。そう思っていた。

カチッ

ライターの音だ。
抱き合ったまま、このまま、火をつけるつもりなのだ。

「まて、A!あッ、ひぃ、」

服の上から乳頭を押さえつけられて脱力する。
どうすればカルナが沈むかなんて、Aはとっくに全て把握していた。

床に押さえつけられて身動きが取れなくなる。
もう一度ライターの音が聞こえた。

必死に足掻く。命乞いではない、それは……

「A、待て!ダメだ!お前に死んで欲しくはない……!」

「おせえよ。」

気がついた時にはもう、その火は燃え移っていた。

激痛が走る。
美しい白い肌が爛れて形を変える。
それでもふたりは唇を合わせた。
炎が肌を焼き器官を潰すまでの永くて短い間、その人を本当に手に入れるまでの間、燃えるからだを絡ませた。
人であるかもわからない、醜いものへと自分が変わっていく感覚…それでも目の前のその人は、絶命の嗚咽の中、自分をみて「綺麗だ。」と呟いた。

「カルナがいないと、生きていけない。」

最期の言葉だった。
それ以降、その人の声は聞こえない。


オレも同じだ。


最期の思いは言葉にならず、消えていった。
ぱちぱちと火が弾ける音が響く。赤い輝きが空から落ちる白い華を消し飛ばした。それ以降何も見えなくなる。誰かがこの火に気づいた時、もう2人はここにいないのだろう。


それでもいつまでも、花を添え、涙を流す人がいた。

その人…アルジュナは生涯悔やみ続ける。
声も姿も記憶にない、兄がいたこと。

その人を2度も救えなかったこと。
その人を永遠に救えないことを。

「もっと早く突き放しておくべきだった。」

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