13.人間の価値は、絶望的な敗北に直面して、いかにふるまうかにかかっている。
先日、アルジュナの通う例の兄弟校で事件が起きたらしい。
犯人は六人グループ。動機は不明。
六人は退学処分となり、何が起きたかは明るみにはならなかった。
被害者は公開されなかったが、同時期に入院、転校となった生徒、アルジュナ。
間違いなく、彼が被害者であるだろう。
その話題でしばらくはざわついているのだろうと思われたが、奇妙なことに、それとはまったく別の事件の噂に火がついていた。
「カルナ生徒会長、集団レイプ事件の被害者ってマジ?」
「××出身っていってたよね、場所も歳もあってるじゃん。」
「そんなふうにはみえないけど、あの人何考えてるかわかんないしさ、ありえる、のかなあ……?」
耳障りで仕方がない。
カルナのことを知ろうともしなかったくせに、噂が流行ればすぐに食いつく、ハイエナみたいなやつらだ。どこから漏れたかは知らないが、生徒会長という役回りも手伝って、噂は学校中に広まっていた。
「ねーAはどう思う?カルナくんと仲良いよね?」
「カルナは事件とは無関係だよ、どこから出たんだ?その噂。」
必ず、話を振られると思っていた。
けれど、こんなに簡単に嘘が出るとは思わなかった。
俺は、カルナに会って変わったのか。
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手は尽くしたが、結局噂の出処はわからなかった。
「カルナ、クラスメイトからなにか言われなかったか?」
「なんのことだ。」
「噂だよ、さすがに耳に入っただろ。」
ああ、とカルナは思い出したような素振りを見せた。
「直接言及はされなかったが、オレをみて騒いでいる者はいた。どのような内容かも理解している。」
内容を理解していながらその落ち着きようなのか、興味が無いのか、カルナの対応は平時と変わらなかった。
「カルナ、お前が心配で言ってるんだ、もう少し考えてくれ。」
「心配は不要だ。今はオレのことよりもアルジュナを優先したい。」
「俺はカルナが1番大切なんだ。」
「気持ちはありがたく受け取ろう。」
時間だ、とカルナは立ち上がった。
俺は何も言えなくて、ただ立ち竦んでいた。
けれど行かせたくなくて、なにかないかと考えると、ひとつだけ、兼ねてからの疑問が口をついてでた。
「カルナは、どうして生徒会長になったんだ。」
無意味極まりない質問だ。だが生徒会長にならなければ、カルナの噂がここまで広まることはなかったし、自由な時間だってもっと取れたはずだ。
「ああ、言わなかったか。オレは、気づけばアルジュナに対抗しようとしている。」
前言を撤回しよう。無意味な質問ではなかった。
「これもまた、そのひとつだ。アルジュナが生徒会長になるのなら、オレも生徒会長になるべきだろう。」
俺の中で、なにかがプチリと切れる音がした。去っていくカルナを止める言葉はもう浮かばず、何もかも取りこぼしてしまったような気分だ。
『あの人何考えてるかわかんないしな。』
「……ほんと、何考えてるかわかんねえ。」
ずっと目を逸らしてきたが、もう限界だろう。
考えてみれば、1度だってカルナから俺に対して行動してくれたことなんてなかった。
カルナにとって、俺は特別ではない。
これだけ時間をかけて愛しても、特別になどなれはしなかったのだ。
帰ろう。
そして、春の朝、_________。
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