無邪気な中毒者 | ナノ

11. この世では誰もが苦しみを味わう。


身体に重圧を感じると、いやでも人は目を覚ますものだ。

Bは目を覚ました。
月明かりしか照らすもののない暗闇のなかで、その人と目が合った。跨られて、両腕が抑えられて、身動きが取れない。そうした意図が全く読めないのだが、目の前の人物に問うしか無さそうだ。

「アルジュナくん、どうかした?」

「貴方を殺そうと思っていた、といったら?」

そういうとアルジュナはナイフを取り出して、俺の胸元に突きつけた。不思議と恐怖はなかった。アルジュナは本気かもしれない、本当に殺されるかもしれないのに、なぜか自分は落ち着いていた。

「そっか」

自分は笑っていた。
なぜかはわからない。けれど、とても嬉しかった。

「どうして、どうして笑うのですか。」

「え、アルジュナくんに殺されるのかなーって思ったら、嬉しくて。」

「ずるい人だ、私は苦しくて仕方が無いというのに。」

腕を抑えていた手を離して、アルジュナはナイフを両手で支えた。抵抗の意思はないと判断したのだろうか。自由になった腕で何をしようか考えた時、ひとつしか浮かばなかった。

もう一度、その頭に手をおいた。

「またそのようなことをして……」

「俺がやりたいからやるんだよ。」

今日くらいいいかと、両手でわしゃわしゃと頭を撫で回すと、またその人は俯いた。

「B」

「ん?」

「好きですよ。」

「そっか。」

ナイフが標的を変えて、ぶちり、ぶちりとBのシャツのボタンを引きちぎっていく。
Bの素肌に、その胸にアルジュナは耳を置いた。

Bの鼓動は心地よくて、温かくて、微睡みに溶けてしまいそうだった。
けれど息苦しくなって、目頭は酷く熱くなる。
撫でていた手が肩に回されて、抱擁されると、肌が密着して、体が熱くなった。

この人を殺したら、この苦しみも、この熱も、全て忘れてしまえるのだろう。

Bを忘れて、何もかも忘れたら、きっと楽になれるのに。

「あいしてください。この身体も、心も。」

その人の下肢に指を這わせた。

なによりも、少なくとも、今の自分にとってはBを忘れることが、1番の苦痛だった。

「忘れないように、この身体にたくさん残して。」

そういうと、Bは目を細めて、アルジュナの腰にそっと手を添えた。
まだ外傷の残る入口が、これからの情事に思いを馳せて、キュッと切なく疼いた。

この身体も、浅ましくなったものだ。

以前、誰の身体を浅ましいと思ったか、もう思い出せないけれど。

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bkm
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