このまま君と堕ちていきたい


「ねぇ見て、空がすっごく綺麗!」


珍しくナマエが授業をサボろうと言った午後。屋上の中心で大の字で寝転がるナマエの隣で、俺も横になる。


「おい、スカートめくれるぞ」
「風のイタズラなんて可愛いよ」


意味が分からん。俺はヘラヘラ笑うナマエのスカートをめくった。


「ちょっ、何すんのよ消太」
「イタズラは可愛いんだろ?」
「あんたは風じゃないから可愛くない」


なんて言いながら、また空を見上げるナマエにつられて、俺も吸い込まれそうなくらいの蒼を見つめる。卒業を控えたこの季節の風は冷たいが、空気が澄んでいて真っ白な雲がゆっくりと流れている。


「…ねぇ、消太」
「なんだ?」
「卒業しても、ずっとずっと大好きだよ」


俺の方を向いて笑みを浮かべるナマエは、ありきたりな台詞だけど、こんな空よりも何よりも綺麗だと思った。起き上がり、ナマエに覆い被さるように抱き締める。


昨年親友を…白雲を亡くし、目標を見失った俺を、ヒーローとしての夢や生き方が分からなくなった俺を、静かに待っていてくれた。独立独行のアンダーグラウンドヒーローとして生きると決めた俺の、背中を押してくれた。ナマエが居たから、俺はまた、ヒーローとしての道を見つけることができた。


「…ナマエ、ありがとう」
「…私も、ありがとう。消太が隣にいてくれるから、空がこんなにも綺麗に見えるよ」


ナマエの腕が背中に回り、包まれる。俺よりもずっと細くて小さな体は温かく、これまでも、そしてこれからもずっと、俺の一番近くで優しく微笑んでくれるのだろう。

少し身動いだナマエは、俺の顔を見上げた。


「消太、大好き」


俺の頬に手を伸ばし、壊れ物を扱うようにそっと撫でながら、愛しい表情で笑うナマエに、引き寄せられる。

あと片手で数える程しかない貴重な授業をサボり、誰もいない屋上で、俺達は初めて唇を重ねた。

何度も角度を変えて互いの温かさを味わう俺達は、側から見れば幼稚で、それでいて滑稽に見えるかもしれない。それでも、あと数日後にはプロヒーローとして生きる俺達には、最後の自由で貴重な時間だった。


「消太、」


見つめ合えば、そこには愛しいナマエ。


「ナマエ…愛してる」


卒業して、生きる道が違っても、俺はずっと、ずっとナマエだけを。

生まれて初めて口にした言葉の続きに、ナマエはまた微笑む。

そうして日が暮れるまでずっと、俺達は抱き締め合っていた。




20200602


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