どうして彼女は、俺のことを好きでいてくれるのだろう。すぐ隣で可愛らしく微笑んでいるナマエを見ていたら、ふと、そんな疑問が浮かんだ。
自分で言うのもなんだが、まず俺の顔はイケメンでもなければハンサムでもない。目の形なんて四角だ。身長はまあ高い方かもしれないが、それでもオールマイトやエンデヴァーのような貫禄はないし、イレイザー・ヘッドやプレゼント・マイクみたいなモデル体型とは程遠い。しかも撫で肩である。
性格だって、嘘はつかないが融通の利かない堅苦しいタイプだ。華々しい趣味とか特技とか、そういうものも持っていない。
……。
こうして自分を分析すると、なんて特徴のない人間なんだと痛感して、悲しくなった。
「直正さん、全部口に出てますよ」
呆れたような声に、吐きかけた溜め息を慌てて飲み込む。
「えっ、え、嘘、聞こえてた?全部?」
「はい、全部」
ナマエが即答する。俺は恥ずかしさを隠すように、ジョッキに残っていたビールを一気に煽った。
部下であるナマエと恋人関係になって一年が経とうとしているが、俺達の関係を知る者はいない。同じ職場なので、周りに気を遣わせない為にも黙っていようと二人で決めたからだった。
そんな彼女と珍しく明日の休みが重なったので、今日は仕事終わりに、久しぶりに二人で晩飯を食べに来たのだが。
「……忘れてくれ」
気分が浮かれているのか、それとも普段あまり飲まないアルコールで気が緩んだのか。何はともあれ、あんな自虐じみた独り言を聞かれていただなんて、恥ずかしいにも程がある。
「直正さんはモデル体型になりたいんですか?」
「ちょ、もうホント勘弁してくれよ……」
情けない声を出す俺とは反対に、ナマエは楽しそうに笑った。仕事中とは全然違う、柔らかい表情で。きっと職場の誰も見たことがない、俺だけが知っている表情で。
美人が笑うと可愛い、なんて。敵なしだと思う。恋人の贔屓目なんてなくても、ナマエはとても魅力的な女性だった。仕事は出来るし有能で、気配り上手で愛想も良い。彼女を狙っている輩が多いことも知っている。
だから、どうして俺なんかと一緒にいてくれるのだろうかと、どうして俺なんかを好きでいてくれるのだろうかと、ただただ疑問だった。
「直正さんは、とっても素敵ですよ」
飲みかけのグラスを傾けながら、呟くようにナマエが言った。
「四角い目も、逞しい肩幅も、正直で誠実なところも、全部素敵です」
驚いて固まる俺に、彼女は静かに続ける。
「イケメンだし、ハンサムだし。カッコイイなって、いつも思ってます」
突然の、予想していなかった褒め言葉の嵐。顔がどんどん熱くなる俺に構うことなく、ナマエは笑顔で、
「誰よりも、一番、直正さんが素敵です」
そう言って、へへっと照れたように笑った。
「……き、君はお世辞が上手いな」
あまりにも真っ直ぐな言葉にどう反応したらいいのか分からなくて、目線を逸らしながら空のジョッキを握る。すっかり温くなった水滴がズボンに落ちた瞬間、ナマエの細い指先が俺の手に添えられた。
「お世辞じゃありませんよ。本音です」
「……」
久しぶりに触れた彼女の手。俺よりもずっと体温が低くて冷たい手は、沸騰しそうな体に心地良かった。
「あの、直正さん」
「……ん、なんだい?」
少しの隙間を空けて隣に座っていたナマエが、ゆっくりと近付いてくる。そして、
「……今日、泊まっていいですよね?」
明日、お休みだし。小さな声で言ったナマエの頬が赤いのは、アルコールのせいなのか、これからの事を想像してなのか。
どちらにせよ、こんなにも可愛らしい表情を見せてくれる彼女が、とても愛しくて。
「……もちろんさ」
俺は頷いて、ナマエの手を握った。
20210315 プラス再録