――まどろみ――
髪を撫でられている。ゆっくり、優しく、それでいて慈しむような手つきが心地良い。
「…可愛い寝顔」
独り言のような呟きに思わず笑いそうになって、ギリギリ耐えた。ここで吹き出してしまったら彼女の温かい手は離れてしまうだろう。もう少しこの穏やかな時間が続いてほしい俺は、呼吸を乱さずに寝たフリを続行。
「…好きだよ」
けれどダメだ。ニヤけそうだ。普段からクールであんまり自分の気持ちの口に出してくれない彼女の珍しい言動に、頬が緩みそうになる。バレない程度に奥歯をぐっと食いしばって我慢していると、ふと撫でられていた手が離れた。そうして、
――ちゅ。
額に柔らかい感触とリップ音。次いで彼女の黒髪が首元に掛かって、ふんわりと同じシャンプーの香りが鼻を掠めた瞬間。もう俺の両腕は細い体を抱き締めていた。
「いや可愛すぎるでしょ」
「え?!」
途端に顔を真っ赤に染めながら慌てる姿が愛おしい。いつから起きてたの、なんて口をパクパクさせながら逃げようとする彼女を離すまいと、ぎゅうっと腕に力を込める。いとも簡単に動きを封じられてしまった彼女が抜け出す術はなく、ただ俺の胸元に熱い顔を押し付けた。
「…ねえねえナマエさん、もう一回言って?」
髪から覗く小さな耳に向かって強請るように囁くも、頑なに首を横に振る彼女。素直じゃないなあと笑いながら、ならば今度は俺が愛を伝えようかと。二人分の体重が乗せられたベッドをギジリと軋ませながら、恥ずかしそうに微笑む彼女とシーツに沈んだ。
20201210