今年も暴走気味のお前




真夜中にSランク任務が終わり、疲労がピークを迎えそうになっている時。前を歩くナマエは疲れなんて全く無いかのようにスキップをしていた。


「お雑っ煮〜おっせち〜」

「…おい」

「おっ年玉〜」

「うお゛ぉぉい!」


よく分からない単語でセンスの全く無い自作の歌まで歌い出す始末。呼んでいた俺にやっと気付いたようで、ナマエは振り返った。


「スクアーロ隊長!あけおめ!です!」


あり得ないくらいの笑顔で言う。今しがた暗殺してきたとは思えない程、 キラキラした笑顔だ。


「あ、あけおめ?何だそりゃ」

「え?!年が明けたら【明けましておめでとうございます】って言うじゃないですか!それの略です!」

「あ゛ー、確か日本の正月文句か。だが、俺たちゃんなこと言わねーなぁ」

「じゃあヴァリアーでは何て言うんですか?」

「何も言わん。普段と一緒だぁ」

「ええ?!お正月なのに?!年の始まりなのに?!な、なんたる事実…!!」

「…つーか、元気だなお前」


何がショックか分からないが絶望溢れる表情で俺を見るナマエは、ハッとして口を開けた。


「え…待って、まさか…じゃあアジトに戻っても、お雑煮やおせちは無いんですか?!」

「なんだそれは?」

「お餅が入った美味しさ百点の雑煮ですよ!おせちは食べ物の宝石箱です!」

「(何訳の分からんことを…)…んなもん、ねぇ」

「そ…そーんーなー…!!」


半ベソをかいていたナマエだったが、しばらくすると何か閃いたかのように目を見開いて、口を三日月形にして笑った。


「…そうだ…無かったら作れば良いんですよ!うん!」

「…はぁ?」

「よっしゃぁぁ!ヴァリアーのみんなに由緒正しき日本の素晴らしい風物詩もとい伝統を伝えなきゃ!」

「う゛ぉぉい…」

「隊長!」

「な、なんだ?」

「一緒に作りましょーか!」

「…はぁぁあ゛?!嫌に決まってんだろぉ!任務で疲れてんだぁ!」

「私だって疲れてますよ!でも大丈夫ですって!お雑煮だけなら全然OKです!」

「俺はOKじゃねぇよ゛ぉ!」

「よし!頑張りましょーね!」

「人の話を聞けぇ!!」


とっとと歩いていくナマエの頭を後ろからド突いてやろうと近付こうとした瞬間。

ナマエがいきなり振り返る。


「隊長、ことよろです!」

「…こ…とよ??」

「ずっと隊長の後ろ付いて行くんで!」

「え…あ、お…おお゛…」


にこ、と効果音が付きそうな笑顔のナマエ。ちょっと嬉しくなったが、先を歩くナマエの肩を少し乱暴に掴んだ。


「…つーか、言ってる側から俺の前歩いてんじゃねぇかぁ」

「…あ。本当だ、じゃあ隊長の後ろに行きまーす!」


ナマエは俺の後ろに回って両手で背中を押しにきた。疲れた体だが押されると少しは歩きやすいもんだ。


「…隊長」

「なんだぁ……、…っ!!」


呼ばれて顔だけ振り向くと頬に暖かい感触。それから、ちゅ、というリップ音。何をされたか一瞬に理解して驚いて固まると。またグイグイと背中を押された。


「な…お、お前っ!い、今!!」

「へへ…私から隊長に【お年玉】です」

「お、お年玉?!それっ…なんだよ!」

「内緒でーす!」

「な…う゛おぉぉいナマエ!」









(【お年玉】って、き…キスのことなのか?!日本じゃ年が明けたらお年玉と称して誰彼かまわずキスすんのかぁ?!う゛おおおおおおい! )

(隊長って超鈍感だしなあ…よし、年明け最初のアピールってことにしよっと!)

(クソ、顔が熱ぃ!)


「…あの、隊長」

「……んだよ」

「…今年も、宜しくお願いします!」

「……お゛ぉ」


…ま。今年もナマエと楽しく過ごせたら、なんでもいいか。

なんて、柄にもないことを思った。



20090102 正月夢




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