愛しさを隠して
例えば世界で一番美しい女が世界で一番醜い男を愛しても、例えば世界で一番賢い男が世界で一番馬鹿な女を愛しても。
愛とは量り知れないモノであり、どんな形であろうとも本人達が幸せならそれで良いじゃないか。私はそう思っている。だから、私も幸せなのだ。
「式、明日だね」
「…」
「やっぱ寂しいなぁ、アンタみたいな奴でも、会えなくなるの」
「…」
明日、私の初恋は終わる。私がずっと好きだった、私がずっと憧れていた人は、明日、私じゃない他の女のモノとなる。
「ま、会えなくなっても…」
会えなくなっても。
私はアンタを好きでいるから、そう言いたいのを必死で堪える。そうして口から出るのは思ってもいない言葉達。
「…お嫁さん、怒って殺しちゃダメだよ?」
「…無理矢理結婚させられるんだ。利用したらカッ消してやる」
そう、XANXUSはボンゴレの繁栄の為に結婚する。政略結婚だ。愛が無いことは明白だった。だけど、だけどさ。
明日から、会えなくなる。相手のマフィアの敷地で暮らすから、ヴァリアーから出て行ってしまう。
「XANXUS、」
「なんだ」
「死なないで、ね」
「ふん、俺がそんなヘマすると思うか」
思わないよ、絶対思わない。でもね心配なんだよ、毎日いつも隣に居たのに…明日からは…もう顔を合わせる事すらも出来ない。
「…XANXUS、」
「…」
「私のボスは…今までも、これから先もずっと、アンタ一人だけだから」
XANXUSは私の頭を優しく叩いた。彼は照れた時に必ずこうする。表情には出ないけれど、紅い瞳が優しく細められるのだ。私は溢れ出る涙を飲み込んで「痛い」と言って笑った。
―――世界で一番残酷な男を、世界で一番不無器用な女が愛した。最後の最後まで愛してると言えないこの気持ちを、優しい言葉で隠した。
さよなら、私の初恋の人。とても悲しいけれど、貴方を好きでいられるだけで私は幸せだから。だから、これからもずっと愛してる。
20120801