真っ直ぐに



「望美が、居た」


宿に帰ってきた将臣君は、複雑な表情でそう呟いた。

食べかけていたご飯が箸から落ちたのも気に留めず、私は驚いて将臣君を見つめる。


「本当に…?」

「…ああ。実は昨日見た夢に、望美が出てきたんだ。その時に下鴨神社に居るって言っててな…今日行ってみたら、本当に居たんだ」

「…それで、望美と話せた?」

「いや…人が思ったより多くてな、顔は出せなかった。でも譲も一緒に居たし、元気そうだったぜ」

「そっか…」

「…あぁ」


私はお箸を置いた。


「良かった…二人とも、無事だったんだね…」


あの波に流され離れてしまってから、いつも心配してた。

優しい人達に助けてもらったかな?私のように、戦場に出てはいないだろうか?

望美だけには…人を斬るあの感触を味わってほしくない。


「望美と譲が一緒だったから、まぁ大丈夫だろ」

「そうだね…本当に良かった」


笑い合う私達を退屈そうに見つめていた知盛さんは、ご飯を食べながらゆっくりと口を開く。


「…誰だ?そいつらは」

「私達の幼なじみです。この時代に来る時に、はぐれてしまって」

「……」


さほど興味が無いのか、知盛さんは視線をご飯に戻し食事を再開した。

…本当に良かった…望美が無事で。

でも、望美は一体どこの誰にお世話になっているのだろうか。

ここは京、源氏の敷地。

…………まさか、ね。

…今は望美が無事な事を知れただけで良かったよね。うん。



***




次の日。

私達三人は目的の神泉苑へと向かった。


「うわ…すごい人…」


神泉苑の入り口から、すでに始まっているだろう雨乞いの儀式の見物人が溢れている。

私達は人混みを掻き分けて後白河法王様が居る場所へと進んだ。


「この奥にアイツが居るぜ」

「う、うん」


緊張しながら部屋へと通してもらう。

中には、上品な着物を着た威厳のあるおじさんが座っていた。

おじさん…後白河法王様は、私をじっと見つめ、静かに微笑む。


「…誠に、瓜二つの顔。そなたが"夕"か?」

「は、はい。お初にお目にかかります」

「ほほう…その透き通る声もそっくりじゃな。して、環内府殿に中納言殿、はるばるご苦労じゃった。久しぶりよのう」


将臣君と知盛さんが会釈をした。


「お気遣いの方、誠に痛みいります」

「お元気そうで、なによりです」


あの知盛さんまでもがこんな風に挨拶するなんて…改めて法王様はすごく偉い人なんだと認識する。


「環内府殿。雨乞いの儀式が始まって数刻経つが…まだこの京に雨は降らぬ」

「そのようですね」


部屋から見える空は気持ち良いくらいの快晴だ。

そして、この部屋からは雨乞いの儀式の舞がベストポジションで見れる。

今も緊張を隠しきれていない白拍子の女の子が、一生懸命に舞っていた。

その光景を横目に、法王様は私を見て笑顔を作った。


「夕よ、そちは舞えるか?」


…やはり、きた、この時が。

私はぐっと息を呑み、出来るだけ堂々と法王様の目を見る。


「…はい。未熟なものですが、心得ております」


隣で将臣君と知盛さんが優しく微笑んでくれたのが分かった。


「…では…この京を救うつもりで披露してくれぬか」

「…はい」


昨日知盛さんがくれた舞扇のふろしきをギュッと握り締め、私はしっかりと頷いた。




20091209


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