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はつ、こい 04

どんなに悩んだり藻掻いたりしても月日は勝手に流れ、すっかり秋色に染まった世界が物悲しさをつれてくる。
ほとんどの部活動は新体制へと変わり、唯一の息抜きといっても過言ではない学園祭も終わってしまえば三年生は己の受験勉強に明け暮れる日々になってしまうのだから、この寂しさも仕方がないのかもしれない。
あれだけはしゃいだ学園祭の反動は大きい様で、クラスのあちらこちらからため息が漏れていた。
かくいう私もそれなりにはしゃいだ口だ。とうとう憧れていた漫画のような恋愛イベントは起きなかったけれど、大勢とはいえ黒尾くんと一緒に過ごす事が出来たので高校最後の学園祭はいい思い出となった。
そのおかげで更に黒尾くんにときめいてしまったのでまだまだこの恋を諦められそうにはないけれど、初恋の思い出としては最高だろう。悔いはない。だからこそ、思い返してしまえば現状との違いにため息が漏れてしまうのだ。


「おいおい辛気臭いぞお前ら。今が頑張り時だろ受験生諸君。気合入れてけよ!」


誰よりもやる気に満ちた先生の大声に下がっていた肩を上げたクラスメイト達には先生のようなやる気は見当たらない。私も例外ではなく、先生のやる気に苦笑いを浮かべてしまうほどには集中できていなかった。いけないなと思いつつも夏休みに必死に勉強したおかげで焦ってはいないし、心にゆとりがあるからこそこの光景もあと何日だろうかと感傷的なことを考えてしまう。
しかし、大半の人が沈んだ気持ちのまま授業を受ける中でバレー部の二人だけはみんなとは少し違っていた。
朝から晩までバレー漬けの日々を過ごす彼らは見事に全国大会の切符を手に入れたようで、今までも過酷そうだったのに、ここのところ更に気合が入っている様だった。お陰でやる気はあるにもかかわらず瞼が閉じそうな彼らにハラハラする日々が続いている。


「あーヤバい、眠い」
「今日は朝から張り切り過ぎたな」
「かなり危なかったけど次も頑張れ。次の選択を乗り越えたらお昼だから」


今にも机と一体化しそうな二人を立たせ、待ってくれていた友人と一緒に教室を後にする。欠伸を噛み殺そうともしない黒尾くんにつられて出た欠伸を必死に隠す私を笑う友人は、私が黒尾くんへの恋を諦められない事が面白くてしょうがないらしい。ただでさえ諦められる気配がなくて悩んでいるというのに、そうやって揶揄われる度に黒尾くんへの恋を更に自覚してしまうから止めてもらいたいものだ。
膨れる私を軽く笑い飛ばした友人の後ろでは、眠そうな二人が揃って大きな欠伸をしていた。


「そうだ、今度一緒に部活へ顔出しに行こうよ。後輩たちも会いたがってるみたいだよ?」
「私に? 確かに引退してから顔出してないな〜」
「声出すとスッキリするし、ね?」


揶揄ってはいるが友人なりに気を遣ってくれたのだろう。勉強ばかりじゃ息が詰まるよね、なんて眠そうな二人に同意を求めている。眠気のせいか話し半分に聞いていた彼らは適当な返事を返しているけれど。
彼女は年下の彼氏が部長をしてるので頻繁に顔を出しているようだし、たまには私が一緒にいってもおかしくはないだろう。なにより大声を出したい気持ちなのも確かだ。


「今日からクリスマスコンサートの練習始めるって言ってたしいこーよ」
「あ、もうそんな時期だね。懐かし〜」
「だよね! 去年も盛り上がったもんね〜って、噂をしてたらってやつじゃない?」


そう言って彼女が指を刺した先では合唱部の後輩くんたちが私たちに手を振りながら駆け寄ってくるところだった。


「高宮先輩!! お久しぶりです!!」


嬉しそうに挨拶する彼らに尻尾がついていたらぶんぶんと振り回していることだろう。口々に会いたかったや部活に顔をしてくれなど慕われている感じを受けると自然と顔もにやけてしまい、甘やかしたい気分になってしまう。


「ちょうど今日顔を出そうかなって話してたところだよ」
「マジっすか!? よっしゃ!」
「絶対ですよ!!」


ビックリするほど喜んでくれる彼らと約束を交わす私の後ろで三人が何か話しているようだったけれど聞き取る事は出来なかった。これ以上三人を待たしてはいけないし、お互い次の授業もあるからと彼らと見送り振り返ると、そこには見たこともないほど怖い表情を浮かべた黒尾くんが居た。
目が合った途端にいつも通りの力ない笑顔へと変わったけれど、一瞬だけみた先程の顔がちらついてしまう。


「……ごめん、おまたせ」
「おー、んじゃ行くか」


少し前まで眠そうにしていたはずなのにいつの間にか欠伸をしなくなった黒尾くんが足早に歩きだす。その背中をいくら見つめても彼が振り返る事はない。それでも夜久くんと会話している姿はいつも通りにみえるのだから首を傾げてしまう。


「……私、なんかしたかな?」
「まーまー、よかったんじゃない?」
「え? 何が?」


もの言いたげなすごくあやしい笑みを浮かべておきながら、秘密だよとウインクを一つ繰り出す彼女に脳内のクエスチョンマークは増えるばかり。困惑する私を楽しそうに笑いながら道中を急かす彼女はどうやら本当に教えてくれる気はないようだ。
諦めのため息を一つついて幸せを逃がしながら先を歩く二人を追いかける。黒尾くんも先程の表情について何も言う事はないようで、その後も私の疑問は解決される事なく時間だけが過ぎていった。

青々としていた葉が枯れて落ち葉と化すのが早い様に、あっという間に月日は流れていってしまう。気が付けば葉は全て枯れ落ち、寂しそうな枝だけが残った木々を厚手のコートに包まれながら見上げるようになっていた。
黒尾くんとの関係性は相変わらずいいお友達のまま。あの日の黒尾くんの表情は見間違いだったのではないかと思うほどいつも通りの日々を過ごしている。何もないことが気になってしまい、もうすぐ冬休みを迎えるというのに未だに恋心を諦められないでいた。


「これはもう、卒業式の日に泣くしかないか」


初恋ってのはこんなにも引きずるものなのだと初めて知った。初恋は実らないと言うのならば、あと何回こんなに苦しい想いをしなくてはいけないのだろうか。
目の前で彼氏へとメールを送っている彼女も、この恋は四度目だと言っていたはず。


「泣かずに笑うかもしれないよ? なんなら今のうちに告白したら? 高校生のうちに彼氏作りたかったんでしょ?」


元々バレー部員なんてやめておけと言っていたはずなのに、何故か最近になって煽ってくる彼女の目線はスマホに向いたまま。そこまで意味もなく面白がっているだけだろうとは思うけれど、調子に乗りそうになってしまう自分がいた。
もしかしたら可能性があるのかもしれない、なんて。


「ほら、もうすぐクリスマスだし」
「クリスマスもバレー部は遅くまで部活でしょ」
「あー、じゃあ初詣とか! さすがに正月は休みでしょ」
「大事な全国大会直前に? 恋愛なんて余裕ないよ、きっと」
「確かに……」


他にはと思考を巡らせている彼女が思っているようなことは、すでに私も考えたのだ。邪魔したくないなんていいながらも。恋をすると思考が暴走しがちで困ってしまう。


「気にしないで自分のクリスマスデートのプラン考えな? ラブラブしている間に私はとことん勉強に励むから」


ちゃんと勉強もしなよって茶化せばもうっと膨れながらも嬉しそうにスマホに視線を戻す彼女にこちらの頬も緩む。いいな、と羨む気持ちはあるけれど、やっぱりこの大事な時期に自分の為だけに告白するのは違うと思う。


「好きなら何してもいいってわけじゃないしね」
「ん? ごめん、何か言った?」
「ううん、なんでもないよ」


願わくば、こんな見込みのない片想いに一年以上つきあってくれている彼女は私の分まで幸せなクリスマスが訪れますように。
そんな願いも黒尾くんへの想いも内に秘めたまま、過酷な受験生の冬休みへと突入していった。


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