四章

 朝独特の気だるい空気を甲高い電子音がかき乱す。普段は気にも留めない電話の呼び鈴も、この時ばかりは忌まわしい。
 布団の中で誰かが出るのを待っていると、数秒も経たぬ内にけたたましい音は途絶えた。大方、祖母が出たのだろう。
 安らかな眠りの世界へ再度旅立とうとした時、凄まじい駆け足の音と共に襖が遠慮なく開かれた。
「嵐、電話だよ。槇さんから」
──また何を朝っぱらから。
 既に睡魔の帳が下り始めていた頭に、祖母のはきはきとした物言いは聞いているだけで辛い。加えて槇からの電話という部分が引っかかる。
 かと言って布団の中でごねても不興を買うだけである。朝からいらぬ買い物はしたくない、とばかりにのそのそと嵐は起き上がり、一階に下りて受話器を取った。折角、子機のある電話を買ったというのに、祖母は親機で取ったらしい。もっとも、活躍を期待された子機も親機に近い台所にあるわけで、親子の絆は切っても切れなさそうだ。
「……もし」
「おせえぞ馬鹿! 三人目だ!」
 もし、と繋げる前に耳を突き刺したのは槇の罵声だった。朝からこれだけ元気なのも彼ぐらいだろうと思いつつ本人なのかを疑っていると、未だ靄のかかる嵐の頭を一気に覚醒へ導く言葉が吐き出された。
「宮古や高洲と同じのだ。説明すんの面倒だからテレビつけろって! ニュース差し込んでるはずだから」
 瞬時にして目が冴える。
 受話器を置いて居間に駆け込み、嵐はテレビをつけてチャンネルを回した。
 すると、速報らしく、慌しい報道センターを背景に原稿を繰り返す男性アナウンサーが現れた。
『……市で刺殺体が発見され、所持品などから被害者は同市内在住の早川操さん、六十八歳と断定されました。被害者は頸部を鋭利な刃物で切られており、それが直接的な死因になった模様です。警察では、今月十八日から起きている二件の殺人事件と手口が似ていることから同一犯による犯行と見ており、本件で三件目の連続殺人事件となる見通しです。繰り返します、本日午前二時頃……』
 同じ情報を繰り返すアナウンサーから別の番組へと変えてみるが、そのどれも同じ事件のニュースで一杯だった。
 嵐は慌てて電話口に戻り、テレビで見た旨を伝える。
「大体はわかりました。でも本当に同じなんですか? 年齢が違う」
「知るか。でも手口は同じ、さっき検死に立ち会った奴から聞いたんだが、凶器も今までの二件と同じと考えていいそうだ」
「桜は」
「……ある。枯れかけているが、花もついてるらしい」
「地域はこれまでのとあまり離れてないですよね」
「ああ。とりあえず、石本を先に現場に行かせてるから、オレもこれから合流せにゃならん。そこで情報仕入れてくるから、お前は先に現場行ってろ」
「高洲さんの?」
 電話台の下からメモを取り出す。

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