「大袈裟だな」
 槇が苦笑する。だが、嵐は一瞥したのみで反論せず、更に言葉を重ねた。
「大袈裟にならざるを得ないでしょう。俺はもう、あちらの招待を受けてしまったんですから」
 苦笑を納め、槇が一気に表情を固くする。どんなに嫌がっても経験則や自身の持つ感覚から、嵐の言わんとするところが察せられるのだろう。大人しく認めればいいのに、と毎度のことながら思う。
「招待状を貰って、俺は屋敷に入った。多分、それだけで招待は完了されているはずです。次はどう出るか」
「お前、わかってて」
「まあ、郷に入っては郷に従えと言いますし。蘇芳の情報をさらっても大して収穫もなかったから、こうした方が早いでしょう。第一、「あちら側」からこんな形で絡まれたのも初めてですからね」
 だから、どう対応していいのかがわからない。
 無視が一番だろうが、向こうから接触してきた限り、そう簡単に引き下がるとも思えない。手切れ金よろしく何かを送って終わりにする手もあったが、通用する相手ではないだろう。慇懃無礼な招待状からは蛇のような執着心が見え隠れするのだから。
 様々な回避策を考えてみたものの、結果として残ったのは招待を受けるという選択肢のみだった。そう好戦的な方ではないが、得体の知れない相手にはその内実を知るのが一番の得策であるように思えたのだ。
──だが。
「……興味本位じゃねえだろうな」
 危惧するかのような声に、嵐は苦笑する。やはりこの人の前で嘘はつけない。
 こんな形での接触は本当に初めてだった。今までは唐突に、あるいは自分も予期せぬ展開で関わることが多かった為に、「あちら側」が嵐自身を認識して関わってきたこと自体が少し面白く思えてしまったのである。
 興味がないと言えば、嘘になるのは事実だ。
 大丈夫ですよ、とだけ返し、話の筋を戻す。
「俺を取り込むつもりなら、さっきの時点でさっさと済ませてます。それをやらなかったのは、まあ、一応あちらにも考えなりあるんでしょう。それがわかるのが次ってことです。事件は俺にはわかりませんが、少しは関係あるんじゃないですかね」
 石本が僅かに身じろぎをし、口を開く。
「管理されてない、としたらあそこに居るのは誰ですか? そこに生身の人間が行ったらどうなるんですか」
 不安そうな口振りに対し嵐が黙っていると、槇が頭をかきながら軽い口調で割って入る。
「……そう焦って好転する事でもねえ。ゆっくり行こうや。今日はひとまず、お開きにして、とりあえず明日事件現場でも見てみるか?」
 のんびりとした槇の雰囲気が伝播し、嵐は詰めていた息を吐いた。石本も肩の力を抜き、槇の申し出に応じる。
 ようやく門の前から歩き出しながら、嵐は屋敷から目を離せずにいた。
 あの幾つもある窓のどれか一つから、田野倉が見ているような気がしたからだった。



三章 終り

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