075.えくぼ(2)


「お前がいつも持っているものだろう。それはいいものなのか?」

「外で生きる大多数の人にとっては、最高にいいものです」

「ここには金銭はないが……食糧はあるな。燃料もわずかながらあったはずだ。ということは、ぼくはいいものを持っていたということなんだな」

「神さま、その燃料は随分前に底をつきました」

「そうなのか?それは気づかなかった」

「ええ、気付かれないようにぼくが新しく燃料を足しておいたので」

「うむ。相変わらずいい働きぶりだ。お前にとっては、それらはいいものではないのか?」

「いいものですよ。ただし、僕の場合は手段の一つにすぎません。そしてそれらを失うといくらか命も危なくなるので、タクミくんのように襲われる前に襲うんです」

「それはまた……きっと褒められたことではないとぼくは思うんだが、言及するのはやめておこう。つまり、タクミくんはお前のように出来なかったから傷ついたというわけか」

「大抵の人は僕のようには出来ません。しない方が賢明だとわかっているからです」

「では、お前は愚かということか」

「はい、そうですね」

「……雑談中のところ悪いんだけどさ、オレの話はどうなったわけ」

 タクミは更にくぐもった声で言う。

「ああ、そうだった。タクミくんは運び屋のように出来ないから傷ついたのだな。では、いいものを持つと傷つくものなのか?」

「あんたどこで生きてきたんだ?そこの食い物だの燃料だの、持ってるのを他人に話したら一晩と命がもたねえぞ」

 そう言って、にやりと笑う。

「易々と他人に話さねえことだな。いいのか?オレに聞かせても」

「お前は襲われる前に襲わなかったから、傷ついたのだろう。そういう者は他者からの奪い方を知らない。……と思うんだが、運び屋のような天邪鬼を常日頃目にしていると、いくらか不安だ」

「貶す時ははっきり貶して下さい。どう落ち込めばいいのかわかりません」

「……あんた落ち込んじゃいねえだろ。ってか、落ち込むなんてしねえだろ、その性格じゃ」

「いやいや、そこまで高く評価されても」

「してねえよ」

「いいものとは、実はあまりよくないもののようだな」

「あ?」

 神さまはじっとタクミを見た。

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