075.えくぼ(1)
庭の一画に出来たささやかな家庭菜園は、順調な成長を見せていた。意外にも運び屋任せにするかと思われた神さまが、自身でその世話をし始めたのである。今日も雑草を取り、水をやった。
「ちょっと楽しくなってきてますね、神さま」
「うむ。自分の手で何かを育てるというのは気分のいいものだ」
「今度は何の種を持ってきましょう」
「まだそんなに種があるのか?」
「神さまが自分で作った世界でしょう。種の数ぐらいは把握しておかないんですか?」
「途中までは数えていたはずだが、忘れてしまった。ぼくも意図しない種が作られるものだから、途中からもうぼくのものではなくなってしまったんだ。だから数えるのをやめた」
「……おい」
「おや、タクミくんが何か言いたそうですよ」
「言いたいことがあるなら、言った方が健康にいいぞ」
「そうじゃない!ここはどこだ?それにあんたらは何なんだ!?」
「僕は運び屋です」
「ぼくは神さまだ」
「だから……もうガキの遊びはうんざりだ。あんたもいい大人なんだから、子供の妄想にいちいち付き合ってないで、現実を教えてやれよ」
「まあまあ落ち着いて」
「落ち着け?怪我してぶっ倒れてたらいきなり拉致られて、気付いたら得体の知れない庭に連れられて、しかもそこにはいかれた子供と妙な男がいやがる。その上この庭からは全く出れないときて、落ち着いてられる奴がいるか?え?」
「……経過は良好なようだな」
「背中を少し突かれただけですからね。若いのもあると思いますが」
「これを突かれたって言うのかあんたは……」
タクミは傷に意識を持っていった。忘れようとしていた痛みが胸にまで回り、思わずその場に蹲る。その隣で、神さまと運び屋の二人は、仲良く並んで家庭菜園の前にしゃがみ込んでいた。
「ここへ来てからというもの、怒ってばかりで忙しない男だ」
「怒らずにいられるか!あんたらは気違いじみたことしか言わねえし、傷は痛いし……くそー……」
「そう、それだ。その傷はどうした?まさか自分でつけたわけじゃないだろう」
「そこまで狂っちゃいねえよ!!」
「多分ですね、神さま。タクミくんは何かいいものを持っていたんだと思いますよ」
「いいもの?」
「お金や食糧、あとは燃料といったものでしょうか」
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