069.猫舌(5)
「……でも、彼女になったっていうなら、パロルはサジェインに手紙を書いてたの?」
パロルは少しだけ表情を固くしたが、すぐに決意の顔に変えた。
「……あのね、ヨルド。私、リドゥンに手紙を書いてたの」
パロルの言葉がすうっとヨルドを通り抜けて行きそうになるのを、ヨルドの中の何かが引きとめた。
「ヨルドに言えなかったのは、ヨルドはリドゥンの一番傍にいる人だから。ヨルドも好きかも、って思ったら、もっと言えなかった。……隠しててごめんね」
パロルは苦笑した。
「手紙は渡せたけど、受け取ってもらえなかった。自分が面倒を見る人間は、自分で決めるって」
ヨルドの目を真正面から見据え、パロルは柔らかく微笑む。
「それって多分、私のよく知ってる人だと思ったわ」
「……リドゥンが?」
「でも、私は悲しくなれなかった。今だからわかるけど、きっとリドゥンの強さが好きだったんだと思う。でも、リドゥンそのものが好きになれるのは、きっとごくわずかの人だけよ」
だって、と笑う。
「前に言ってたじゃない。性格がひん曲がった奴だから大変、って。ね、ヨルド」
パロルに笑いかけられ、ヨルドは自分が何を考えているのかわからなくなった。何を言えばいいのか、何をしたらいいのかもわからず、何となく頭に手をやる。
「そんなのいきなり言われてもなあ……ええと、でも、ほら、さ」
何が「でも」で、何が「ほら」なのかわからない。
──何がヨルドの気持ちをわからなくしているのか、もっとわからなかった。
「ちょっと、とりあえずお茶飲む」
苦し紛れにそう言い、ツァリが飲んでいたまだ熱いコーヒーを飲んだ。ツァリが止める間もなくヨルドが口に含むと、あまりの熱さにコーヒーを吐き出し、乱暴にカップを置いた。
慌てて水を飲むが、舌はまだ熱をひきずっている。
──お前は猫舌なんだから。
幼い頃、リドゥンはお茶を煎れる時、ヨルドの分だけぬるめのお湯で煎れてくれた。小さい頃からヨルドは猫舌で、冷めたお茶の味しか知らない。
幼馴染の猫舌を一番気遣ってくれたのは、幼馴染の煎れた冷めたお茶だったことを思い出し、舌がずきんと痛んだ。
終わり
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