069.猫舌(4)
それで、と視線を外さないヨルドとパロルにツァリは言う。
「あんたたちは人の食事を見るのが趣味なの?自分の食べなさいよ」
「いや、そんな趣味ないけど。それにそのサンドイッチなら、もう何回も食べてるし」
「ヨルド……そういうことじゃないってもう……」
隣でパロルが呆れたように言う。
「ヨルド?」
「そう、私がヨルド。こっちがパロル」
「ヨルド、ヨルド……ああ、あの落第生」
「……喧嘩売ってんの?」
「そっちが売るなら買うけどさ。あの天才の幼馴染か。そっちのパロルって、そっか、問題児の彼女」
「問題児?」とパロルが聞き返し、「彼女?」とヨルドが問う。ツァリはひとまとめにして答えた。
「サジェインが言ってるみたいよ。パロルは彼女だって」
「パロルが!?」
「サジェインは問題児じゃない!」
「……とりあえず座ったら?」
思わず立ち上がった二人をなだめるでもなく、椅子を勧める。言われるまま、すとん、と二人は座った。
「パロル、彼女になったの?」
「そ、それは後にして。あの、サジェインは問題児じゃなくて……」
「喧嘩でどれくらい指導くらったと思ってんの。私なんかより指導室の常連よ、あいつ」
「そんな……」
見るからに落ち込むパロルを前に、ヨルドは励まそうと思ったが言葉が見つからない。ツァリの言うことは本当だからだ。事実のフォローなどしようがない。
すると、ツァリがパロルを見ながら呟いた。
「……でも嫌な喧嘩する奴じゃないから。そんなに落ち込まないでよ」
パロルはツァリを見返し、「ありがとう」と言って微苦笑する。ヨルドはツァリに顔を向けた。
「思ったより優しい」
「また変な噂流されても困るから。……思ったよりって、あんた私を鬼畜か何かみたいに言うのやめてくれる」
「噂聞く限りじゃそう思ってたけど。でも、違うみたいだね。何かほっとした」
ツァリは目を丸くしてヨルドを見る。
「あんたが何で安心するのよ」
「そりゃするでしょ。あんな噂聞いてたら、狼みたいな人がうろついてるんだって思うじゃん。でもツァリはそうじゃないから、良かったって。そういうこと。わかる?」
ツァリは頬杖をつき、口許を隠した。
「……落第生の言うことなんか、わかんない」
「……何その言い草……」
少々落ち込みながら、ヨルドはひっかかるものを覚えてパロルを見る。
──あれ?
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