069.猫舌(3)


 とりあえず、今のパロルを見る限りでは、状況は好転したということだろう。

「……まあ、いっか」

 これ以上の追求は意味がない。今日はパロルの学都残留祝いで、もう一つぐらいケーキを奮発しようか、とパロルと共にメニューを見ていると、横に人が立つ気配がしたと同時に店内のざわめきが変質した。

「隣、空いてる?」

 パロルがヨルド越しにその人物を見て、驚いたような顔になる。「空いてるよ」と言いながらヨルドは振り返り、目を最大限にまで開いて驚きを表した。

「……ツァリ=ラードル?」

 わざわざフルネームで確認されても、ツァリは表情一つ変えない。空いてるの?と、繰り返して問うた。

「……うん、まあ」

「じゃあ、座るけどいい?」

 ツァリの気迫に驚いて、ヨルドは頷くだけしか出来ない。

 彼女の噂は総じて悪いものが多い。外の犯罪組織と繋がっているとか、学都をライバル視する学校からのスパイだとか、中でも飛びぬけて悪いのが人を殺したという噂だ。それらがどれだけ有名な噂なのかは、今まで雑談していた生徒たちが一様にツァリを見ては囁きあう様子を見れば、一目瞭然であろう。中には席を立つ生徒までいる始末で、客数が半分ほどにまで減る。

 もくもくとサンドイッチを食べるツァリの横顔を見ながら、はた、とヨルドは思った。

──そういえば、彼女をこういう場所で見かけるのは初めてだ。

 学都の校舎や寮はともかく、このような公共の場に自ら出てくることはまずなかった。もっとも、嘘か本当かわからない噂の乱舞を思えば、出てきたいとも思わないだろうが。

 なんとなく気になり、ヨルドは「ねえねえ」と声をかける。

「こういう所、好きなの?」

 屈託のない質問に、ヨルド以外の人間がざわついた。ツァリはそんな反応にも慣れた風に答える。

「まあまあ。こんなに見られて食事することになるとは思わなかったけど」

「普段、あまり来ないよね」

「今まで来たことなんかないし。私が歩けば、まるで猛獣でも見るような目で見る連中がいるから。……何も取って食いやしないわよ、鬱陶しい」

 後半は背中に向けて好奇の視線を送る、生徒たちに向けてだった。一瞬、店内の空気がびくついたが、端から段々と雑談する余裕を取り戻していく。それでも、中には「人殺し」やツァリの噂に関する単語が飛び出たりした。

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