第二章 予言



第二章 予言


 大地を激しく蹴る蹄の音が、街道に響く。まだ太陽も昇りきらぬこの時間、朝靄に混じり、土埃がもうもうと立ち込めていた。

「──鐘は!?」

「鳴った!」

「ああ、まずい……」

「ライがパンをしつこく詰め込んでるから」

「お前が寝坊するからだろ!」

 仲良く互いに責任をなすりつけあうが、馬の速度は変わらない。二頭も連れては動きが取れぬため、一頭に二人で乗り、ライが手綱を握っている。後ろでライにしがみつくアスが下げている鞄は、朝寝坊したにも関わらずライがしつこく詰め込んだパンで異様な膨らみを見せていた。

 あながち間違ってもいない責任のなすりつけあいは数秒で終り、焦燥感が漂う。

「……間に合うかな」

「間に合わせるの!」

 気弱なライの発言を叱咤し、馬の腹を蹴る。すると、一声いなないて馬は更に脚を速めた。顔を打つ風の速度が増し、アスは満足そうに言う。

「これなら間に合う」

 相棒の荒業に内心舌を巻きながら安堵する。

「夕方に着けばいいよな」

「あと、帰りだよ」

「泊まらないと無理だよなあ……」

「今はまだ朝だからいいけどさ」

 ちらりと周囲の木々の暗がりに目をやれば、そこかしこから嫌な気配が二人の肌を突き刺す。それが魔物という存在であることを二人は熟知していた。

 太陽が昇っている間は彼等も大人しい。しかし夜闇が支配する時間帯は街を出るな、というのが人々の口癖である。

 魔物とて異形でありながら生物である。食わねば生きてはいけず、その食性から動物や──時には人も食らう。進んで人を襲うことも街を襲うこともないが、空腹時の彼等に出会うほど不幸なこともない。

 微かに浮き出た鳥肌をさすりながら、アスは提案した。

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