第一章 二人
アスが剣を習っていることを、ライは知っている。子供の情報網とは馬鹿に出来ないもので、彼女が習い始めてすぐのようにその噂は瞬く間に広がり、二日目にしてライの耳へ届いた。ライに対して特に否定する必要もなく、問い詰められ素直に頷いた覚えがある。
アスの剣の腕をそれなりに買っているライは、頭を大きく縦に振った。
──無理な話じゃないかもしれない。
「うん、行こう! 絶対!」
つられてアスも頷く。
──絶対に。
予言書を見に行くことだって出来るのだ。頑張ればアルフィニオス神書のオリジナルも見付かるかもしれない。いつか読んだ小説の主人公に姿を重ね、アスは飛び上がりたくなりそうな体をどうにかして抑えるべく、大きく息を吐いた。
「……楽しみだね」
相槌を打つライと共に、窓を見やる。
既に陽も暮れ、窓一面に広大な暗い空が高い所で裾を広げ、幾万もの星々を抱えていた。何を見ても何を知っても、今この嬉しさに勝るものはなく、これを打ち砕くものもまた、あるはずがない。
この気持を例えるなら、目の前に広がる空を用いるのも躊躇ってしまう。これだけでは足りない。この空になど負けぬほどに二人の夢は果てがなく、また広かった。
一章 終
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