第十五章 岩窟の処女



第十五章 岩窟の処女


「……止めてくれ」

 それまで一定のリズムを保って流れていた車輪の音が、御者の掛け声と鞭の音で止まる。長閑な田園風景のど真ん中で土煙をあげて止まる馬車に、兵士の一人が駆け寄った。

 カーテンの引かれた窓を軽く叩くも、それがたくし上げられることはない。馬車の主は顔を見せることなく待機の旨を伝えただけだった。

 はい、と言って前方へ去る兵士の足音を聞きながら、馬車の主であるリミオスは頬杖をついていた手を下ろした。

「……さて……?」

 何の冗談だろうか、と嘆息する。

 エルダンテ国王が亡くなり、葬儀の手筈も整えた。後は高官達に任せておけば問題ないとふんで、こうして大きな街道を選んでリファム王城まで足を向けている。

 あの豪気な王がいないという噂の裏でも取れればとは思っていたが、実際は特にこれといった理由はない。国王が亡くなった手前、一応これからも温厚な関係を続けていけたらと挨拶しに行くだけのことだ。

 アスに関してリファムがあまり友好的でない動きをしているのは知っている。ついでにイークの事もリミオスはよく知っていた。あの男なら、あの男だからこそ、アスを簡単に渡すような真似はしない。

──だが。

「……あれは本当の事を知らないはずだが」

 リミオスの事をイークは、「エルダンテの執権」という肩書き以外に知らないだろう。もし知っていたとしてもリミオスの支障にはならない。

 恐らくこちらの動向を探りつつ、自らを有利な方へ持っていく為にアスの捕獲を企んだのだろうが、その実、逃げられている。リファムの防衛も大したものではない──が、それすらもイークの考えの内だとしたら。

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