第十四章 葬られた民
いくらか不安になってカリーニンへ視線を向けると、頭上から低い声が降ってきた。
「足が遅いのか?」
本当に不思議そうな声で失礼な事を聞いてくる。長身の男を見上げるようにしてアスは睨み付けた。
だが、男は意に介した様子もなく淡々と続ける。
「あまりにも遅いので我々が迎えに来た。……剣はしまえ。しばらく戦う必要はない」
「イル=ガリム」
カリーニン達を囲んでいた男が声をかける。早くしろ、と促しているようだ。
名を呼ばれたイルガリムは頷いて返し、手で合図をして仲間を先に行かせる。
こちらの動向が気になるらしい彼らは、気にする素振りを見せながらも、その行動は迅速だった。次々と茂みの向こうへと消える。同じようにカリーニン達も連れて行こうとするのを見て、身を乗り出したアスをイルガリムは制した。
「何もしない。だから剣をしまえ。それは強すぎる」
強い物言いに攻撃的なものは感じられず、アスは大人しく従う。だが、最後の言葉が引っかかる。
──強すぎる?
ただの剣にしか思えないものを、彼は本当に敬遠していた。
これから何をするのか問うつもりで見上げると、イルガリムは僅かに踵を返した形でアスを見据える。
「我々を「葬られた民」と呼ぶ者もいる。ある意味でそれは正しいが、まだ我々は葬られていない」
後方でヴァークが目を見開くのが見えた。サークも小さく声を上げて回りの男達を見上げる。
「私はイル=ガリム。あなたがこちらへ来るというので迎えに来た」
一瞬、アスを見定めるような目つきで見てから続ける。
「ご老体をあまり待たせないでもらえると有り難い。『岩窟の処女』がお待ちだ。……『時の神子』であるあなたを」
十四章 終
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