第十五章 岩窟の処女



 リファムの情勢や仕組みはあらかた頭に叩き込んであったし、リミオスからすればアスの居場所を知るのは難しい事ではない。彼女がどこへ向かうのか察知し、言い含めておいたアスの昔馴染みであるティオルを、その場所に配置するのも容易かった。

 そもそも、彼女はアスに憎悪を抱きながらも、必死に自身の良心と葛藤していたのだ。哀れだと思う一方で滑稽ですらある。憎みたいなら心のままに従えば良いものを。

 結果、彼女は自身の憎悪に負け、アスにも負けた。当初の予定通りにエルダンテの兵士を秘密裏に侵入させ、リファムの兵士がやったように見せかけて火を放った。

 そして、炎の中でアスは一度目の目覚めを果たしたのだ。昔馴染みの死というのはやはりてきめんだったか、と内心ほくそ笑んだものだ。こちらが用意した舞台に上がり、こちらが用意した踏み台を経て成長する姿は目には見えずとも、力で感じ取ることが出来て嬉しくなる。

 更に、投じた一石はリミオスの予想通りの波紋を広げた。グラミリオン国境でのリファム兵士による焼き討ちはリファムのみならず、グラミリオンにまで大きな影響を及ぼし、小さくなりつつあった反リファムの意識を一気に燃え上がらせた。嬉しい誤算はリファムまでもが軍拡を推し進め出したことだったが、そう早くは済まないだろうと思っていたのである。

 ところが、今リミオスが感じ取るものは明らかにイークとは違う意志だ。

 過去に得たこの忌まわしい能力も役立つ時がある。今がそうだ。だから何者かも知れぬ意志と力を、リファム王城から遠いここからでも察知出来る。

 イークとも違う。アスや勿論、ライではない。カラゼクであればすぐにそれとわかる。

 神経を研ぎ澄ませば澄ますほど意志の持ち主がわからなくなっていく。イークの意志であるならこちらも対処の仕様があるが、そうでなければまた話が変わる。

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