愛しいと言う感情/敏京



「京君、お疲れ様」
「ん、お疲れ」
「今日も格好良かったよ」
「ふーん」
「ねぇ、俺は?」
「お前って何年経っても変わらんのやな、そのナルシストっぷり」
「ナルシストじゃないよー。京君に格好良いとか言われたらテンション上がるじゃん!」
「あぁ、うん。何や似合うんとちゃう。そのスカートとか」
「ね!やー穿いてみたかったんだー」
「…昔穿いとったやん」
「今と昔は違うでしょー?」
「まぁ…せやな…」


体型とか諸々な。

ライブが終わって楽屋に入って早々、着替えるんもめんどうでソファに寝転がっとったら。

やたらテンション高い敏弥が帰って来た。


誰かコイツを止めてくれ。

僕疲れとんねん。
コイツのテンションでまた一気に疲れるわ。


「早く着替えよー?そんで帰って家でいちゃいちゃしようよー」
「ちょ、何すんねんお前死ね」


ソファに寝転ぶ僕と視線を合わせる様に床にしゃがみ込んで。
そのまま唇に軽くキスされる。

は、此処楽屋やでアホ敏弥。


「いいじゃん。皆忙しくって見てねーよ。ね」
「ね、って…」


呆れて喋るんも怠くなって来た。

まぁ、いつもの事やけど。

いつもの事、が重なると人間諦めがつくよな。


「喉は平気?」
「あー…うん。多分」
「よかった。無理しないでね?」
「わかっとる」
「明日も頑張ろうね」
「うん」


めちゃくちゃ笑顔の敏弥を見たら、まぁえぇかって思ってまうし。

僕の髪の毛を撫でて、愛しそうな視線を向けてから、敏弥は立ち上がった。


恥ずかしげもなく、愛情を全面に押し出す表情を見ると。
何とも言えない、気持ちが込み上げる。


「敏弥」
「ん?」


上半身を起こして、僕の傍から離れて着替えに行こうとする敏弥を呼び止める。

背丈は変わらんけど、着る衣裳も容姿も、顔立ちも、昔とは全然変わった。

その努力を、傍で見て来た。


なぁ、そんな僕の事一番に何でも考えんなって思う。

昔は、それが当然に思えて。

多分、自分に余裕が無かったから敏弥がくれる分だけ受け取るんが精一杯やったんやと思う。


「京君?」
「……」
「どうしたの?」
「敏弥はいけるん?」
「ん?」
「腰」
「うん、大丈夫だよ」


引き止めて、ソファに座ったまま立っとる敏弥の腰に腕を回す。

顔は見えへんけど、すぐ敏弥の指が僕の髪の毛を撫でて来た。
全然、違う。
昔と今。

けど、一緒に成長して来たから、違和感は無い。


「将来な」
「ん?」
「車椅子生活になったら、僕が全部世話したるし」
「うん」
「やから安心して僕より目立つプレイしたったらえぇと思う」
「何それー」
「いつもしよるやん」
「そうかなぁ…」
「でも無理はすんなや」
「うん。わかってる。ありがと、京君」
「ん」


どんな行動をして、どんな風に言うたら。
敏弥が僕にくれた分、返せるやろか。

僕が感じた敏弥の愛情を、敏弥に感じて貰えるやろか。


「人前でくっつくの嫌なんじゃねぇのー?」
「えぇねん。忙しいて誰も見とらんのやろ」
「そうだね」


楽しそうに笑う敏弥の声を聞きながら、腰辺りに擦り寄る。
敏弥の身体で死角になっとるから、そんな見えんやろ。

コイツ図体デカいし。


「車椅子になっても、俺は京君の後ろ姿を見ながらずっとベース弾くよ」
「ほな、声が出んくなっても、敏弥の前で必死に叫ぶわ」


お互い笑って。

敏弥の腰から手を離した。

もう着替えなアカンし。


姿形が変わっても、変わらへん。

仮定の話は好きちゃうけど。

仮定では、終わらせへんから。




20090919


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