傷跡さえも/敏京



「痛い?染みる?」
「いけるで。やるなら早よやったら」
「うん。これ絆創膏も当てらんないよねー…包帯巻く?」
「大袈裟やろ…、ッつ」
「あっ、御免ね」
「いけるって」


ライブ後。

スタッフから借りた救急箱持って、ホテルの京君の部屋に押し掛けた。


ベッドに座って向かい合って。
上半身裸の、京君の身体に走る赤い線に。
消毒液を染み込ませたガーゼを当てる。


いつもの、事。

京君は触られんのとか消毒とか、そんなん嫌がるけど。
俺が懇願して、やらせてって言ったら渋々折れてくれて。

以来、京君の自傷跡の手当てをすんのは俺の役目。


見慣れた身体に、新しく入った傷跡を眺めながら。

消毒液を当てるだけじゃ無くて。
外見的な傷跡も、内面的な京君の思いも。
全部癒せたらなって、そう考える。


「……敏弥?」
「え、あ、何」
「どしたん。ボーッとしとるやん。もう終わった?」
「あ、うん。終わったよ。そのまま服着たらまた血とかついちゃうんじゃね?」
「んー。黒やし、いけるんちゃう。部屋ん中で裸でおるんもなー」


笑いながら、手当てが終わって片付けてる時に京君は黒いTシャツを着込む。


消毒液と、京君の血液が混ざったガーゼをゴミ箱に捨てる。


「敏弥ー腹減った」
「打ち上げ出ないからだよー」
「敏弥やって出てへんやん。なぁ、食べに行こ」
「え、此処ら辺の土地勘無いし、ファンがいるかもだよ?」
「そん時はそん時」
「バンギャに囲まれたら絶対ぇ京君機嫌悪くなんじゃん」
「やってウザいやん」
「…マネージャーに買って来て貰う?」
「別にえぇけど。美味いモンな」
「はいはい。ちょっと待ってね」


前までは、俺が打ち上げに出てから食べ物買って、京君の部屋に来てたんだけど。
最近はすぐ京君の部屋に直行だから。


打ち上げには出ないのに、出歩きたくはなる京君を宥めて。
マネに電話を入れて2人分の飯を頼む。


「すぐ買って来てくれるってー」
「ふーん。何やろ」
「ねー」
「ちょ、くっつくなや暑いわ!…って、うわ!!」


電話を切って携帯をベッドに投げて。

京君にベッタリくっついてそのまま伸し掛かる。


俺のがタッパあるし、京君は支えきれなくなってベッドに倒れて。
押し倒した形で、ぎゅーっと抱き締めた。


「もー何なん敏弥ウザいで」
「……」
「敏弥?」
「…ステージ上のね、京君は格好良いと思うよ」
「は、何なんいきなり」
「身体を使ってまで表現する姿とか、本当、格好良い」
「うん」
「悔しいぐらい惚れるよ」
「何やお前まで薫君みたいにファンや言うんちゃうやろなー」
「違うもん恋人だもん」
「え、口調キモ」


京君の首筋に擦り寄って話してると。
京君は頭をぽんぽんと撫でて来た。

ガキじゃねぇよ。

その行為が嬉しいと思う俺は末期な程、京君に惚れてるけど。


「何かね、でも京君に嫉妬すんの」
「は?」
「京君がしてる事だけど、俺は京君の身体に刻み込めないし、かと言って傷を治す事も出来ないじゃん。治るのなんて自然治癒力だしさ」
「うん」
「京君の事大好きで何でもしたいし俺のだって言いたいけど、やっぱそこは踏み込めないじゃん」
「まぁ僕は僕の為に歌っとるしな」
「うん、そう言うトコが好き。だけど嫉妬すんの。京君の事が好き過ぎて、京君自身に」


顔を上げて、京君を見つめると。

ふっと表情を和らげて。


「アホやなぁ、敏弥」
「……っ」


大好きな顔で。
頭を撫でてた手を滑らせて頬に当てられた。


「ホンマに、アホや」
「どうせアホだよー。京君大好きなんだもん」
「なぁ。僕の感情の吐き出し方は、誰にも譲らへんけど」
「うん」
「救いを求めとるワケちゃうから、そのままでえぇのに、手当てされるんは敏弥やからやで」
「…本当?」
「ん。僕がそのままの僕でおれるん、敏弥がおるから」
「…うん」
「やから、何も心配せんで。不安にもなんなや。僕は何処も行かんから」
「うん、大好きだよ、京君」


また顔を埋めて、更に抱き締めたら。

僕もって言葉が返って来たから。
何だか、胸の奥が熱くなった。


刻む傷跡に疲れたら。

俺がいつでも癒せる様に。

ずっと傍に、いるからね。


「あ、ちょぉ敏弥ノックしとるで。ご飯来たんちゃう」
「んー。もうちょっとこのまま」
「ウッザ、腹減っとんねん僕。早よ取りに行け!」
「えーケチー」
「早よせな自分の部屋に追い返すで」
「とっち行きまーす」
「よし」


本当に、好きだなって思うよ。
京君。




20090912


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