交わる事のない関係/敏京



「ねぇねぇ京君」
「何や」
「この子って、昔の京君に似てない?」
「あー?……知らん」
「そう?なーんか似てるなーって」
「どうでもえぇやん、そんなん」


打ち合せの休憩中。

隣で座っとった敏弥が見とった雑誌をこっちに寄越して来て。
そこに写っとんは知らんバンドやったけど。

似とるって言われても僕こんなんちゃうし。
似とる奴なんてそこら辺にぎょーさんおるし、そいつもそんなんの一人やろ。

後輩バンドでも無いしどうでもえぇ。


「京君のが全然魅力的だけどね」
「は、そんなん当たり前やろ」
「ねぇ今日買い物して帰ろうよ」
「別にえぇけど」
「やった。デートだね」
「買い物やろアホらし」


敏弥が雑誌を閉じて、テーブルに置いて。
そん時見えた、表紙飾っとるそいつに視線を落として。


人の猿真似しか脳が無い。
そんな人間とトレースされるなんて吐き気がする。








打ち合せも終わって夕方。
敏弥と一緒に買い物。

最近あんま買い物とかしてへんかったから、お互いが好きな服のブランドとか行ったりして。

何だかんだで楽しかった。


「敏弥ー、腹減った。なぁ、何か甘いモン食おや」
「えー何がいいの」
「アイスかパフェかケーキ」
「うわ、拷問だね」
「えぇやん。腹減ってん」
「もう晩ご飯の時間だしね。ファミレスでいい?」
「何処でもえぇ。休みたいし」
「近くにファミレスあったと思うんだけどなぁー…」
「そう言えば明日仕事何時からやっけ」
「あぁー…明日はねー…11時集合だよ」
「ほなら時間あるな。明日の朝は和食にしろや」
「あーうん。なら帰りにスーパー寄って帰ろうね」
「ん」


敏弥と取り留めの無い話しながら歩いて。
目的地のファミレスの前に着いた。


何や先客がおって、入り口前で男女が言い合いしとんやけど。

ウザいで喧嘩なら余所でやれや。


自分の行き手に邪魔くさい人間がおって、舌打ちしながら入り口に近づく。

敏弥は僕が機嫌悪くなった気配を感じて、苦笑いしながら後に続いて。


入り口近くまで行くと、何や言い合いしとった奴等は人の気配に気付いたらしくて。
声が止んで、こっちを見た。


…ら、何や男の方がガン見して来たからムカついてこっちも睨み返す。

何やねん。

何か文句あんのか。


「京君、入んねーの?」
「あ、うん行く行…」
「京さん!!!」
「あ?」


敏弥に促されて、その男女の脇を抜けて店内に入ろうとした時。
思い切りデカい声で名前呼ばれてんけど。

男の方に。

は、何コイツ。

何や知っとんか。
ウザいな、こんなトコでファンに会うとか。

死ね。


名前呼ばれて反応してもうて、男の方見たら。

背丈一緒ぐらいの、何やようわからん派手な服着とる奴やった。

連れとる女も派手やし。

何や軽薄そうな男やな。


僕が何も言うてへんけど、相手の男は何やテンション高くごちゃごちゃ言うとった。


「あの、俺バンドやってます。京さんスッゲェファンで…」
「あぁ、そ。そりゃどうも」
「えーっとガゼットのルキって言います。一応ヴォーカルで…」
「あ、京君この子、今日見た雑誌の子だよ」
「あぁ、アレか。ふーん」


横で事の顛末を面白そうに見守っとった敏弥が、この男の名前聞いた時に反応して口を挟む。

何や仕事場で敏弥が見よった雑誌の奴か。

こんなんやったっけ?

化粧しとったしわからん。


僕に似とるって、敏弥が言うた奴。

何処が似とんねん。
腹立つわ。


「ッ、敏弥さん、初めまして…!」
「うん、初めましてー。ってか俺の名前も知ってんだね」
「はい、そりゃも…」
「敏弥。帰る」
「あ、ファミレスいいの?」
「もうえぇ。早よ行くで」
「うん。御免ね。また今度ね」
「あ、はい、さようなら」


敏弥がにっこり笑って軽く手を上げて。
チラリと、ルキと名乗った人物を見ると名残惜しげにこっち見とって。

イライラしたまま、帰路に着く。


「京君ー何怒ってんのー?」
「怒ってへんわ、死ね」
「怒ってんじゃーん。ね、さっきの京君のファンなんでしょ。雑誌に載ってんの似てたもんねー」
「知らんし。プライベートで会ってもウザいだけやあんなん」
「確かにね。俺の京君に気やすく声かけんなよって思うよ」
「嘘吐け。絡まれて楽しそうに見とった癖に」
「あぁー、まぁね」
「腹減ったしウザい。敏弥の所為やで帰って何か作れ」
「いいよ。何食べたい?」
「オムライス」
「わかった。材料買って帰ろ」
「ん。後アイスと」
「好きだねぇ」


過去の僕に似とるって敏弥が思う奴と。

喋んなや敏弥。

ウザい。


「ホント京君てさー可愛いよね」
「はァ?頭湧いとんか死ね」
「俺は京君だけ、今も昔も大好きだからね」
「うっざ…」

楽しそうに笑う敏弥に舌打ちして。
投げ付ける様に僕の荷物を敏弥に押し付けると。
一瞬驚いた顔しながらも笑って、それを受け取った。


『また』なんて無くてえぇ。


僕をあんなんと、重ねんなや。

アホ敏弥。




20090924


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