淳くん/鬼歌
一応僕と淳くんは恋人な訳で。
やっぱ恋人の誕生日って特別だから。
ワンマンの準備で多忙な中。
0時過ぎてから淳くんへ誕生日おめでとうって電話したら、電話口で物凄いテンパり様で逆にこっちが焦った。
作業が立て込んでるから、明日ってかもう今日も会うって事で長電話はしなかったんだけど。
事務所での作業中、ちょっと休憩って時。
そこにいるスタッフが、いきなり大きいケーキを運んで来た。
どうやら淳くんを祝う為の誕生日ケーキらしい。
四角い大きなケーキは苺や生クリームが乗ってて。
真ん中にはチョコで『歌広場淳27才誕生日おめでとう』って書かれてた。
それを見た淳くんのテンションはヤバいぐらい上がって。
どうしようどうしようって騒いでたから取り敢えずテーブルに置かれたケーキの前に立たされてた。
メンバーやスタッフ、皆で淳くんにおめでとうって言って。
淳くんがケーキの目の前に立って、蝋燭立てられてんのをキラキラした目で見てる。
「じゃ、僕が歌おうかな」
「えっ、鬼龍院さん歌ってくれるの!?」
「僭越ながら…」
「えへへ、すっごい嬉しい」
前にテレビ収録の時にも歌ったけど、今日が淳くんの誕生日な訳だし。
目を細めて嬉しそうな淳くんの顔を見つつ。
その隣に立って、ちょっと咳払いをしてハッピーバースデーを歌う。
ケーキを囲った皆が手拍子をして歌い切ると、淳くんはケーキの蝋燭を吹き消した。
顔を上げた淳くんは泣きそうな顔して唇を噛んだ。
おめでとうって皆で拍手して、豊や研二さんは淳くんの肩を抱いて笑って。
淳くんは顔を歪めて我慢出来ずに泣いてた。
「生きててよかった…」
って、そう言った淳くん。
皆でデカいケーキを分け合って食べて、まだまだやらなきゃいけない事があるからお開きで作業に戻る。
別室で作業をしてて、少し集中力が途切れたから伸びをして息を吐く。
トイレに行こうと部屋を出る。
そしたら階段の所に淳くんが缶ジュースを片手に体育座りで座り込んでいた。
休憩中かな。
皆、各々作業してるから、何してるのかは把握して無いから。
「淳くん」
「あ、鬼龍院さん」
ちょっとボーッとしてるっぽい淳くんに話し掛けて、隣に座る。
座ったのはいいけど、何か用事があった訳では無くちょっと会話に困る。
でも嬉しそうな顔をした淳くんに、ちょっと可愛いと思ってしまった。
「あー…えっとね、プレゼント、何が欲しい?」
「え、」
「何か買いたかったんだけど思い付かなくて…僕の趣味で買っちゃっていらないって思われてもヤだし…」
僕はこう言うのが苦手で、気の利いた物をプレゼント出来無い。
本人に聞いた方がまだ欲しい物をプレゼントしてあげられる。
淳くんは驚いた顔をした後、ふ、と微笑んで首を傾げた。
「何もいらないよ。鬼龍院さんに歌って貰っただけで満足なんです、僕」
「でも」
「ホントに。皆に祝って貰って、大好きな鬼龍院さんの声で歌ってくれて、僕は幸せ者だなって」
「…泣く程?」
「…もう、それは恥ずかしいから忘れて。…でも、うん、だって僕は鬼龍院さんの歌で救われてるから」
重くて御免ねって淳くんは眉を下げて笑うけど。
盲目なまでに僕に心酔するのを隠そうともしない淳くんを、僕はどこかで拠り所にして安心してる部分があるから、重いなんて思わない。
寧ろそうじゃないと『好き』を素直に受け止められないかもしれない。
「…じゃぁさ、今度、淳くんの好きなプレイしようよ」
「…はっ?何言ってんの」
「誕生日だから、淳くんの言う事何でも聞くよ!」
「……それって『プレゼントは僕です』みたいなパターンですか」
「あ、それもそうだね…身体で払います、みたいな」
「…馬鹿じゃないの」
「ご、御免、やっぱいらないよね…」
何か他に、淳くんが喜びそうな物をちゃんと考えなきゃ。
そう思って俯いて自分の指先を見つめてると、服の袖を引っ張られる感覚。
「………じゃ、えっちの時、耳元でいっぱい名前を呼んで『好き』って、欲しい…です」
「え、あ…」
「ッあーもう!何言ってんの!やだやだ無理!」
淳くんは自分で言って、自分でテンパって顔を両手で覆う。
見える耳は真っ赤になってて。
それが淳くんの望む事なら。
「そんなの、いつでもしてあげるよ」
「…普通のえっちでだよ?」
「いつも普通じゃん」
「…それはあり得ないから」
淳くんの顔を覆う両手首を持って、顔を覗き込む様にして見ようとしたけど。
恥ずかしいのか頑なに顔を見せようとはしない。
だから、真っ赤な耳元に唇を寄せる。
「淳くん、誕生日おめでとう。………好きだよ」
「…ッ…」
ちょっと格好付けた声で、耳元で言うと淳くんは肩を震わせて、また泣きそうな顔で僕を見て来た。
「鬼龍院さん狡い…卑怯だ…」
唇を噛んで呟いた声に、ちょっと笑う。
そんな淳くんが可愛くて。
一年、生きててくれてありがと。
これからも宜しくね。
終
20120830
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